「うちは光回線です」——そう答える機会は多いのに、その「光」が何をしているかまで説明できる方は、あまり多くないのではないでしょうか。
電柱から家に入ってくるあの線の中で、いったい何が起きているのか。
実は光ファイバーとは、髪の毛ほどの細さのガラスの糸のことです。その中を、光が跳ね返りながら走っています。
この記事では、ITやネットワークの知識がない方でもわかるように、光ファイバーの構造と、なぜ速いのか、そして意外と知られていない弱点までを解説していきます。
先に結論だけ書いておきます。
- 光ファイバーが速いのは、光が速いからではありません。伝わる速さは、電気を使うケーブルとほとんど変わりません
- 違うのは1秒にどれだけ載せられるかと、どこまで届くかの2つです
- ガラスなので急に曲げると光が漏れます。束ねたり、家具の裏で折ったりしてはいけません
- 局から自宅までの光ファイバーは、複数の利用者で分け合っています。夜だけ遅くなるのは故障ではありません
目次
光ファイバーとは?髪の毛ほどのガラスに光を通す線

光ファイバーは、英語で optical fiber(オプティカル ファイバー)と書きます。fiber は「繊維」という意味で、名前のとおり光を通すための細いガラスの繊維のことです。
断面を見ると、3つの層でできています。
- コア — 中心にある、光の通り道になるガラス
- クラッド — コアを囲むガラス。光をコアの中に閉じ込める役割
- 被覆 — いちばん外側の樹脂。ガラスを傷や力から守る
どのくらい細いのかというと、国際的な通信規格を決めているITU-T(国際電気通信連合の部門)の勧告では、クラッドの外径を0.125ミリと定めています。
そして光が実際に通っている中心部分は、わずか0.009ミリほどしかありません。
この細さでは、表面に傷がひとつ付くだけで折れやすくなってしまいます。だから被覆で覆い、さらに何本かをまとめてケーブルにして使います。
ここで、ひとつ疑問がわくかもしれません。パソコンやスマホが扱っているのは電気の信号です。光ではありません。
その変換をしているのが、家の中に置いてあるONU(光回線終端装置)という箱です。電気の信号を光の点滅に変え、届いた光をまた電気に戻しています。
どんなケーブルを使い、信号をどう送るかを決めているのは、ネットワークのいちばん下の層です。くわしくは物理層の記事で解説しています。
ちなみに光ファイバーは通信専用のものではなく、内視鏡や照明にも使われています。ただこの記事では、通信の話にしぼって進めます。
「光ファイバー」と「光回線」は何が違う?
ここまで読んで、「自分が契約しているのは光回線であって、光ファイバーではないのでは」と思った方もいるかもしれません。
この2つは、指しているものが違います。光ファイバーは線そのもの(モノ)、光回線はその線を使った通信サービス(契約)です。
水道にたとえるなら、光ファイバーが水道管、光回線が水道の契約にあたります。管の性能が契約の内容を決めているので、この記事のように管のほうを知っておくと、契約の説明も読み解きやすくなります。
光ファイバーの中を光はどう進む?「全反射」で閉じ込める仕組み

ここで不思議に思いませんか。光はまっすぐ進むものです。それなのに、なぜ曲がりくねった線の中を届くのでしょうか。
その答えが全反射です。光がすべて跳ね返って、外へ出ていかないという現象を指します。
光は、光を曲げる力が強いものから弱いものへ進むとき、その境目に浅い角度(境目の面に対して寝かせた角度)で当たると、通り抜けずに全部はね返ります。
プールの中から水面を斜めに見上げると、空ではなく底が鏡のように映って見える——あれが全反射です。水(曲げる力が強い)から空気(弱い)へ、浅い角度で当たっているために起きています。
光ファイバーは、この現象がいつでも起きるように作られています。コアのほうがクラッドより光を曲げる力が強いガラスにしてあるのです。プールの水にあたるのがコア、空気にあたるのがクラッドだと思ってください。
イメージとしては、内側が鏡張りになったトンネルです。トンネルが多少うねっていても、光は壁で跳ね返りながら奥まで進んでいきます。
電線のように「光を運ぶ」のではなく、光を閉じ込めて逃がさない。これが光ファイバーの正体です。
ただし、この「多少うねっていても」には限度があります。急に折り曲げると当たる角度が変わり、全反射が成り立たなくなるのです。これは記事の後半でくわしく扱います。
光ファイバーが速い理由は「光が速いから」ではない

「光の速さで届くから速い」——そう思っていた方も多いはずです。
ところが、数字で見るとそうではありません。ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。
① 伝わる速さは、電気とほとんど変わらない
ITU-Tは、ネットワークを設計するときの目安として、伝送路ごとの遅れを一覧にしています。そこには次のように書かれています。
| 伝送路 | 1kmあたりの遅れ | 速さに直すと |
|---|---|---|
| 同軸ケーブル(電気で送る) | 4マイクロ秒 | 秒速25万km |
| 光ファイバー(光で送る) | 5マイクロ秒 | 秒速20万km |
驚かれたでしょうか。同じ表の中で、光ファイバーのほうがわずかに遅いのです(出典: ITU-T G.114 Table A.1)。
光の側が遅いのは、光がガラスの中を進むからです。真空中の光は秒速およそ30万kmですが、ガラスの中ではその3分の2ほどの速さしか出せません。
ただし、どちらも中継する機器の遅れを含んだ設計上の目安です。この1マイクロ秒の差そのものを気にする必要はありませんし、「光は電気より遅い」と覚える必要もありません。
大事なのはけたが同じということです。光は電気の何倍も速く伝わる、ということはありません。この「距離ぶんの遅れ」については遅延の記事でくわしく扱っています。
② 違うのは「1秒にどれだけ載せられるか」
では何が違うのか。1秒間に何回、信号を刻めるかです。
データは、点滅の速さで運びます。速く点滅させられるほど、同じ1秒でたくさんの情報を送れます。
ここで効いてくるのが、使っている波の細かさです。
①で比べた同軸ケーブルが運んでいるのは、電気の信号です。電気の信号や電波が使う波は、光に比べるとけた違いに粗い——これが、速さでは並ばれた光ファイバーが引き離せる理由です。
身近な電波で見てみましょう。Wi-Fiの電波は1秒間に24億回(2.4GHz)振動しています。いっぽう光ファイバーが使う光は、よく使われる波長でおよそ200兆回。その差はおよそ8万倍です。
細かい波ほど、細かく刻む余地が大きくなります。定規の目盛りが細かいほど、細かく測れるのと同じです。
ただし、これはあくまで上限の話です。振動が8万倍だから通信速度も8万倍になる、というものではありません。実際に出る速さは、機器や契約によって決まります。
光ファイバーの「速い」は、届くのが早いという意味ではなく、同じ時間にたくさん運べるという意味なのです。この量を表す単位がbpsです。
③ もうひとつの違いは「どこまで届くか」
もうひとつ、電気にはない強みがあります。遠くまで弱らないことです。
減り方を表すのに使うのがデシベルという単位です。これは「どれだけ減ったか」を表すもので、3デシベル減ると、強さは半分になります。
ITU-Tの勧告では、長距離で使われる波長帯(1550ナノメートル付近)について、光の減り方を1kmあたり0.30デシベル以下と定めています。これを光の強さに直すと、こうなります。
| 進んだ距離 | 残っている光の強さ |
|---|---|
| 1km | 約93% |
| 10km | 約50% |
| 100km | 約1000分の1 |
10km進んでも半分残っている、と考えてください。LANケーブルが建物の中で使う長さのものであることを思えば、けたが違うのがわかります。
さらに、光ファイバーは金属ではなくガラスでできています。電流が流れないので、まわりの機器が出す電気的なノイズを拾いません。
遠くまで届いて、途中で邪魔もされない。だから街と街を結び、海の底にも敷かれているのです。
光ファイバーの弱点は? 曲げと共用の2つ

ここまで良いところばかり書きましたが、光ファイバーには弱点もあります。しかも、どちらも読者のみなさんに関係するものです。
光ファイバーは曲げに弱い — 急に曲げると光が漏れる
思い出してください。光が外へ出ていかないのは、境目に浅い角度で当たっているからでした。
ところが線を急に曲げると、当たる角度が起き上がってしまいます。浅かった角度が深くなると全反射が成立せず、光の一部がクラッドを突き抜けて外へ逃げます。
では、どのくらいの曲げならよくて、どこからがまずいのでしょうか。ITU-Tの勧告に、その両方が書かれています。
| 曲げの半径 | 巻いた回数 | 失われる光 |
|---|---|---|
| 半径30ミリ(直径6センチ) | 100回 | 0.1デシベル以下 |
| 半径15ミリ(直径3センチ) | 10回 | 数デシベル |
半径が半分になっただけで、巻いた回数は10分の1なのに、失われる光は何十倍にもなっています。
さきほどの「3デシベルで半分」を当てはめると、数デシベルというのは強さが半分前後、あるいはそれ以下まで落ちるということです。机の裏で小さく巻くのが、いかにもったいないかがわかります。
逆に言えば、直径6センチ以上のゆるい輪なら、100回巻いてもほとんど失われません。余った線を束ねるときは、小さくまとめず大きな輪にしてください。
この曲げの弱さは無視できない問題だったため、ITU-Tは曲げに強い光ファイバーを別の勧告として定めました。建物の中で使うことを想定したもので、こちらなら半径10ミリ、さらに強い種類では7.5ミリまで想定した設計になっています(数字が2つあるのは、強さの違う種類が分けて決められているためです)。
とはいえ、自宅のケーブルがどちらの種類かを見分けることはできません。すべて「曲げに弱いもの」として扱うのが安全です。
そもそも、どの線が光ファイバーなのでしょうか。壁の差込口からONUまでをつなぐ細い線が光ファイバーです。ONUから先、ルーターやパソコンにつながっているLANケーブルは電気を通す銅線なので、多少曲げても問題ありません。
家庭でもオフィスでも、気をつけることは次の3つです。
- 余った線を小さく巻いて束ねない — ゆるく大きな輪にする
- 家具やドアで挟まない — 折り目がつくと元に戻りません
- ステープル(コの字の金具)で留めない — 勧告でも推奨されていない留め方です
模様替えのあとから急に不安定になった、という場合は、まず線の取り回しを疑ってみてください。
直したら、効いたかどうかを確かめます。速度テストを巻き直す前と後で実行して、数字を見比べてください。
それでも変わらないときは、すでに折り目がついている可能性があります。ケーブルの交換は自分ではできないので、回線事業者に連絡してください。
1本を、みんなで分け合っている
もうひとつは、契約の話です。
局から自宅まで光ファイバーが1本ずつ引かれている、と思っていませんか。実際は違います。
たとえばNTT東日本は、10ギガの「フレッツ 光クロス」を案内するなかで「加入者光ファイバーを複数のお客さまで共用する」「ベストエフォートサービス」と明記しています(NTT東日本の発表資料)。
ベストエフォートとは、最大限がんばるが速度は保証しないという意味です。
つまり、途中までは近所と同じ線を通っているということです。水道の本管を分け合っているのと同じで、みんなが一斉に使えば細くなります。
これは10ギガに限った話ではありません。1ギガのプランの提供条件にも、「実際の通信速度は、お客さまのご利用環境や回線の混雑状況等により大幅に低下する場合があります」と書かれています。
「1ギガの契約なのに夜だけ遅い」のは、故障ではありません。仕組みのとおりの動きです。
ですから、混雑する時間帯に速度が落ちるのを、プラン変更だけで解決するのは難しいことがあります。
ただし、混雑している場所によっては、契約している接続方式を変えると改善することがあります。従来の方式では、同じプロバイダの利用者が必ず通る場所があり、そこが夜に混みやすいためです。
FTTHとは? 光ファイバーは家から海の底まで続いている

最後に、視野を広げてみましょう。
家のONUから出た光は、電柱や地下を通って局へ届きます。そこから都市と都市が結ばれ、さらに海底ケーブルとなって国境を越えます。
このうち、家まで光ファイバーを引き込む方式をFTTH(Fiber To The Home=家庭まで光ファイバーを、の意味)と呼びます。いま日本の光回線のほとんどがこの方式です。
意外に思われるかもしれませんが、海底ケーブルの中身も光ファイバーです。太く見えるのは、水圧や生き物から守るために何重にも覆っているからで、光が通っているのは真ん中の細いガラスです。
あなたが海外のサイトを開くとき、その情報は家の壁から海の底まで、途切れずに続くガラスの道を通って届いています。途中で何度も分かれたり束ねられたりしながら、光としては一度も途切れずに。
そしていま、この光をさらに活かそうという動きも進んでいます。機器の中まで光で通すIOWNという構想がそれです。
まとめ
この記事では、光ファイバーの構造と、速さの正体、そして弱点までを解説しました。
あらためて要点をまとめると、次のとおりです。
- 光ファイバーは髪の毛ほどのガラスの糸。コア・クラッド・被覆の3層でできている
- 光は全反射でコアに閉じ込められる。ゆるいカーブなら外へ逃げない
- 伝わる速さは電気とほぼ同じ。違うのは「1秒に載せられる量」と「届く距離」
- 逆に急な曲げには弱い。直径6センチ以上のゆるい輪にし、小さく巻いたり挟んだりしない
- 1本を複数の利用者で共用している。夜だけ遅いのは仕組みのとおり
次に電柱から伸びる細い線を見上げたとき、その中を光が跳ね返りながら走っている様子を思い浮かべてもらえたら嬉しいです。





