在宅勤務で「VPNにつないでから作業して」と言われたり、広告で「VPNで安全に」という文句を見たりします。
VPNとは、インターネットの上に、自分専用の通り道を作る仕組みです。ただし、会社で使うVPNと、個人が契約するVPNサービスは目的が違います。同じ言葉で呼ばれるので混乱しやすいところです。
この記事では、ITやネットワークの知識がない方でもわかるように、VPNが何をしている仕組みなのか、そして2つの使われ方の違いを解説していきます。
目次
VPNとは? インターネットの上に作る専用の通り道

VPN は Virtual Private Network(仮想プライベートネットワーク)の略です。
インターネットは、世界中の誰もが使う共用の道です。そこに中身の見えないトンネルを1本通し、自分の通信だけをその中を通す——これがVPNのイメージです。
トンネルの中身は暗号化されているため、途中の道で誰かが覗いても内容は分かりません。「専用線を借りたのと似た状態を、共用のインターネットの上に作る」ので、仮想(Virtual)と呼ばれます。
VPNの仕組みを順に追う

以下はつないだあとに中で起きていることの説明で、操作の手順ではありません。使う側がするのは、最初にアプリを開いてつなぐところまでです。
- STEP
手元の機器とVPNサーバーがつながる
パソコンやスマートフォンから、相手のVPNサーバー(会社のものか、契約したサービスのもの)へ接続します。
- STEP
送るデータが暗号化される
手元を出る前に中身が読めない形に変わります。途中の経路で覗かれても分かりません。
- STEP
VPNサーバーが受け取り、元に戻して送り出す
ここから先は、ふつうの通信として目的の相手へ届きます。相手から見える送信元は、自分ではなくVPNサーバーです。
- STEP
返事も同じ道を通って戻る
返ってきたデータもVPNサーバーで暗号化され、トンネルを通って手元に届きます。
ここで押さえておきたいのは、守られるのは「手元からVPNサーバーまで」の区間だけだということです。その先は、ふつうのインターネットを通ります(会社のVPNなら、その先は社内なので、この心配はいりません)。
なお、STEP 3 の「相手から見える送信元がVPNサーバーになる」のは、通信をすべてトンネルに通す場合です。会社のVPNには、社内宛の通信だけをトンネルに通し、それ以外は自宅の回線から直接出す設定もあります。
暗号化やトンネルの作り方にはいくつかの方式があり、それぞれ名前が付いています。
会社のVPNと、個人で契約するVPNは別物

同じ「VPN」という言葉が、まったく違う2つの用途に使われています。ここを分けて考えると、話が整理できます。
| 会社のVPN | 個人で契約するVPN | |
|---|---|---|
| 目的 | 社内のネットワークに入るため | 通信を暗号化する・接続元を変えるため |
| つなぐ先 | 自分の会社のVPNサーバー | 契約したサービスのサーバー |
| 用意する人 | 会社(情報システムの担当者) | 自分(月額のサービスが多い) |
| 使う場面 | 在宅勤務・出張先から社内システムを使う | 公共のWi-Fiを使うときなど |
在宅勤務で「VPNにつないで」と言われるのは左側です。会社のイントラネットは社内に閉じているので、外からは開けません。VPNで社内にいる状態を作ってから、社内ポータルや共有フォルダを使います。
自分でVPNを契約する必要はありません。使うアプリ・ID・設定情報は、会社の担当者から渡されます。広告で見る月額のサービスとは別のものです。
つないだあとは、社内にいるときと同じように社内ポータルのURLを開くだけです。特別な操作はありません。
手順は会社ごとに違うので、当サイトでは扱いません。代わりに、担当者に聞いておくとよい3点を挙げておきます。
- どのアプリを使うのか、どこから入手するのか
- IDとパスワードは社内のものと同じか、別に発行されるのか
- 仕事が終わったら切るのか、つないだままでよいのか(会社の方針で分かれます)
広告で見かけるのは右側です。以下は、こちらの話になります。
個人でVPNを使うと、何ができるのか

① 公共のWi-Fiでの通信を守る
カフェや空港の無料Wi-Fiは、同じ電波を多くの人が使っています。暗号化されていないWi-Fiだと、やり取りの中身を近くで拾われるおそれがあります。
VPNを使えばこの区間もトンネルの中を通るので、拾われても中身は読めません。
いまのWebサイトはほとんどが HTTPS(アドレスが https:// で始まるもの)で、すでに暗号化されています。
そのため「公共Wi-Fiで中身を盗み見られる」危険は、以前より小さくなりました。VPNが上乗せするのは、どのサイトを見たかを近くの人に知られにくくするといった部分です。
② 接続元のIPアドレスが変わる
相手のサイトから見える送信元は、自分の回線ではなくVPNサーバーになります。そのため、アクセス元をたどられにくくなります。
ただし、完全に匿名になるわけではありません。VPNサービスの側には、誰がいつ接続したかの記録が残りえます。また、サイトにログインすればアカウントで誰かは分かります。
③ 接続元の国が変わる — ただし規約を確かめる
②の結果として、接続元の国も変わります。海外のサーバーを選べば、相手からは海外からのアクセスに見えます。
「海外から日本の動画配信を見る」といった使い方が紹介されることがありますが、これは各サービスの利用規約を確かめてから判断すべきことです。配信サービスは、利用できる国を規約で定めていることがあります。
たとえば Netflix は利用規約の「1.5.アクセスの制限」で、「Netflixコンテンツにアクセスできるのは、主としてお客様がアカウントを開設した国内、および当社がサブスクリプションプランを提供し当該コンテンツのライセンスを付与した地域に限るものとします。」と定めています(2026年8月15日確認)。
「接続元の国が変わる」のは仕組みとしての事実ですが、それを地域制限の回避に使うことはおすすめしません。
サービスごとに規約が違い、アカウントの利用を止められる可能性もあります。使う前に、そのサービスの規約を自分で確かめてください。
個人でVPNを選ぶときに見るところ

当サイトでは特定のサービスを比較しませんが、見るべき観点は挙げておきます。
- 記録(ログ)をどう扱うか … 接続の記録を残さない方針か、残すならどこまでか。プライバシーを目的にするなら最重要
- 運営元と所在地 … どこの国の会社か。開示請求の扱いが国によって変わる
- 通信が遅くならないか … 経路が増えるぶん、遅くなる方向にはたらく。無料のものは速度が絞られていることが多い
- 使っている方式 … 古い方式しか選べないものは避ける
VPNは、自分の通信をすべて預ける仕組みです。トンネルの出口にいる事業者は、こちらの通信を見られる立場にあります。
つまり「通信を守るため」に使うVPNは、その事業者を信用できるかどうかがすべてということです。運営元の分からない無料サービスは、守るどころか逆になりえます。
なお、会社から指定されたVPNを使う場合は、この選定は不要です。会社が用意したものを、指示どおりに使ってください。
VPNで守れないこと
「VPNを入れれば安全」と紹介されがちですが、守られない部分のほうが大きいと思っておくほうが安全です。ここまでに出てきたものを3つにまとめます。
- VPNサーバーから先は素通り … 守られるのは手元からVPNサーバーまで。その先は、ふつうのインターネットを通ります
- 完全な匿名にはならない … 相手から見える接続元は変わりますが、ログインして使うサービスからは、これまでどおり本人だと分かります
- 通信の相手が事業者に変わるだけ … 誰にも見られなくなるのではなく、見られる相手がVPN事業者になるということです
ウイルスや詐欺サイトを防ぐ仕組みでもありません。VPNが担当しているのは通り道の部分だけです。
まとめ
- VPNは、インターネットの上に暗号化された通り道を作る仕組み
- ⭐ 会社のVPN(社内に入るため)と個人のVPN(通信を守る・接続元を変える)は目的が別
- 守られるのは手元からVPNサーバーまで。その先はふつうのインターネット(会社のVPNならその先は社内)
- いまはHTTPSが普及しているので、公共Wi-Fiでの効き目は以前より限定的
- ⚠ 接続元の国は変わるが、配信サービスが利用できる国を規約で定めていることがある。使う前に確かめる
- ⚠ VPNは通信をすべて事業者に預ける仕組み。運営元が分からないものは避ける
「VPNを使えば安全」ではなく、どこからどこまでが守られ、誰に預けているのか。そこが分かると、使うべき場面が見えてきます。






