電車の中でワイヤレスイヤホンをつけたまま、ふと不安になったことはありませんか。
「この状態で、知らない人につながれたりしないのだろうか」「聴いている音を盗み聞きされていないだろうか」。
調べてみると、たいてい「使わないときはオフにしましょう」と書かれています。ところが実は、オフにして防げることと、オフにしても防げないことは、はっきり分かれています。
この記事では、ITやネットワークの知識がない方でもわかるように、Bluetoothで実際に起きること・起きないことと、やるべきこと・やらなくていいことを解説していきます。会社で使ってよいのかを聞かれたときの考え方や、身に覚えのないタグの通知が出たときの手順も扱います。
目次
Bluetoothは「知らない人に勝手につながれる」のか

結論から言うと、知らない機器が勝手につながってしまうことは、ふつうはありません。
つなぐ側の操作だけでは、話が完結しないからです。
イヤホンを初めてつないだときを思い出してください。ケースのボタンを長押しして、機器のほうを「受け入れる状態」にしたはずです。この登録作業をペアリングといいます。
たとえるなら、内側からしか開かない扉のようなものです。外から呼びかけるだけでは開きません。
ちなみに、Wi-Fiの暗号化とは守り方が違います。Wi-Fiでは自分でパスワードを決めますが、Bluetoothでは決めません。「強いパスワードにする」という対策が、そもそも存在しないのです。
数字が出る機器と、出ない機器がある
ただし、扉の頑丈さには機器による差があります。
パソコンとスマートフォンをつなぐとき、両方の画面に同じ6桁の数字が出て「この数字は合っていますか」と聞かれることがあります。
あれは、途中に別の機器が割り込んでいないかを、利用者に目で確かめてもらう仕組みです。Bluetoothの規格をまとめているBluetooth SIGのペアリングの解説によれば、2つの機器がそれぞれ6桁の値を計算して画面に出し、利用者はそれが一致するかを確かめることが期待されています。
いっぽう、イヤホンのように画面もキーボードも無い機器では、数字を出しようがありません。
そういう機器のために用意されているのが「Just Works(ジャストワークス)」と呼ばれる方式です。米国の政府機関である国立標準技術研究所(NIST)が出しているBluetoothセキュリティのガイドは、この方式を次のように位置づけています。
- 機器の入出力の制限でほかの方式が使えないときに使われる
- 数字を見比べる手順がなく、割り込みへの保護がない
とはいえ、これは「イヤホンは危ないから使うな」という話ではありません。割り込むには、そのとき電波の届く範囲に相手がいる必要があるからです(次の章で見ます)。
ところが、その確認を省いていた機器が見つかった
2026年1月、いま説明した「機器の側が受け入れる状態になっていること」という前提そのものが崩れる問題が公表されました。
見つけたのはベルギーのルーヴェン・カトリック大学の研究チームで、対象はGoogleの「Fast Pair」に対応したイヤホン・ヘッドホン・スピーカーです。ふたを開けるだけでスマートフォンにつながる、あの便利な仕組みのことです。
本来は「いま自分はペアリングモードか」を機器の側が確かめてから応じるはずでした。ところがその確認をしていない実装が見つかったのです。研究チームの公表資料によれば、利用者が何も操作しなくても、14メートルほど離れた場所から、中央値で10秒でつながってしまいます。
つながられると、マイクを使われたり、位置を追跡されたりする恐れがあります。対象は複数のメーカーにまたがり、規模は数億台とされています。日本語ではJVN iPediaの登録で確認でき、深刻度は「重要」、攻撃方法は「隣接」(=近くにいる必要がある)と評価されています。
ここで大事なのは、これがイヤホン側の問題だということです。スマートフォンがiPhoneでもAndroidでも関係ありません。
そして対策は1つだけです。メーカーが出す更新を当てること。研究チームは「初期化やペアリングの解除では直らない」と明記しています。自分の機器が対象かどうかは、研究チームのサイトで製品名から調べられます。
この一件は、記事のいちばん最後の結論を先取りしています。守りの要は、オフにするかどうかではなく「更新されているか」だということです。
読者がここでやることは2つです。数字が出たら必ず両方の画面を見比べる。そして手元の機器を更新する。
数字が一致しなかったときは、その場でつながずに中断してください。両方の機器の電源を入れ直してやり直せば、たいていは揃います。何度やっても合わないときは、周囲に別の機器が割り込んでいる可能性があります。
Bluetoothで実際に起きること・起きないこと

Bluetoothイヤホンは盗聴されるのか
まず、Bluetoothにはやり取りの中身を盗み聞きされないようにする仕組みが用意されています。
先ほどのNISTのガイドは、ペアリングや認証とは別に「機器のあいだで交換されるパケットの中身を盗み聞きしようとする試みを阻むための、独立した機密性のサービスを提供する」と説明しています。ペアリングのときに共有した鍵で、そのあとのやり取りを包んでいるわけです。
では絶対に安全なのかというと、そうではありません。狙われてきたのは、その仕組みの手前にあるペアリングのほうです。
Bluetoothにも、これまでいくつかの弱点が見つかっています。
たとえば2020年には、一度ペアリングした機器になりすます手口と、ペアリングのときに確認の方式をすり替える手口が公表されました。
ただ、公表資料を読むと、どちらにも同じ前提が書かれています。
- なりすましの手口:「Bluetooth の電波到達範囲に居る攻撃者によって」
- すり替えの手口:「攻撃対象となる2つの機器の無線範囲内におり」
つまり、仕掛ける側が、あなたのすぐ近くにいなければ成立しません。インターネット越しに、世界中の誰かからまとめて狙われる類のものではないのです。
玄関の鍵と同じで、ピッキングをするには玄関の前に立つ必要がある、と考えるとイメージしやすいかもしれません。
そして、なりすましの手口の資料が挙げている対策は、拍子抜けするほど単純です。「製品をアップデートしてください」。すり替えの手口についてBluetooth SIGが出した告知も、利用者に対しては機器とOSの最新の更新を適用するよう呼びかけています。
まとめると、「電波を拾えば誰でも音が聞こえる」ということはありません。ただし前の章で見たイヤホン側の欠陥のように、機器の作りに問題があれば、マイクを使われることはあり得ます。
会議の音声が近くの人に筒抜けになっているのではないか、という心配に答えるなら——それは通信の仕組みではなく、機器が更新されているかどうかの問題です。
知らない人に居場所を知られるのか
もう1つの心配が「電波を出し続けていたら、居場所が分かってしまうのでは」というものです。
この点には、仕組みの側の手当てがあります。ただし対象は消費電力の少ないBluetooth LE——忘れ物防止タグや腕時計などが使う方式です(詳しくはBluetoothのバージョンの違いで解説しています)。
先ほどのNISTのガイドは、こう説明しています。以前は固定の番号が使われており、その機器が見つけられる状態のままだと「居場所が容易に追跡されてしまう」。プライバシー機能を有効にしておけば、定期的に変わるランダムな番号が使われ、「この脅威が緩和される」。
これは、スマートフォンがWi-Fiで使うMACアドレスを変える仕組みと、同じ考え方です。名前を変え続けている相手は、追いかけても同じ人だと分かりません。
いっぽう、音楽を送るイヤホンは、これとは別の方式でつながっています。イヤホン側で追跡が心配なら、効いてくるのは番号の付け替えではなく、前の章で見た「機器が更新されているか」のほうです。
Bluetoothをオフにすると、何が防げて何が防げないのか

「不安なら、使わないときはオフにしましょう」。よく見かける結論です。
これは半分は正しく、半分は的を外しています。
防げるもの — 自分のスマートフォンを狙う手口
前の章で見たなりすましやすり替えの手口は、そもそも電波が出ていなければ成立しません。
オフにすれば、その分は防げます。ここについては、オフは効きます。
防げないもの① — イヤホンやスピーカー側の欠陥
ただし、オフにして止まるのはあなたのスマートフォンが出す電波だけです。
イヤホンやスピーカーは、それ自体が電波を出しています。ですから、この記事の最初に見た「ペアリングモードかどうかの確認を省いていた機器」の問題は、スマートフォンを切っても消えません。
ここで効くのはオフではなく、機器そのものの更新です。
防げないもの② — 忘れ物防止タグによる追跡
いっぽうで、オフにしても防げないものがあります。カバンや上着に入れられた、忘れ物防止タグです。
GoogleのAndroidヘルプは、はっきりこう書いています。
「スマートフォンで Bluetooth や位置情報サービスをオフにしたり、機内モードをオンにしたりしても、トラッカーやデバイスの所有者がトラッカーの位置情報を確認するのを防ぐことはできません」
考えてみれば当たり前で、電波を出しているのはタグのほうだからです。自分のスマートフォンを黙らせても、タグは黙りません。
しかも、話はここで終わりません。
AppleとGoogleは、身に覚えのないタグが自分と一緒に移動していると通知する仕組みを、2社にまたがる業界規格として用意しています。他社製のタグも含めて通知されるのは、iPhoneならiOS 17.5以降、AndroidならAndroid 6.0以降です(AppleのAirTagだけであれば、iOS 14.5以降でも通知されます)。
そして、Appleが案内している設定の手順には、こう書かれています。
「『設定』>『Bluetooth』と選択してから、『Bluetooth』をオンにします」
つまり、iPhoneでこの通知を受け取るには、Bluetoothがオンである必要があります。
不安だからオフにする、という行動は、タグに対しては守りにならないどころか、気づくための手段のほうを手放すことになるわけです。
では、実際に「あなたと一緒に移動しています」という通知が出たら、どうすればよいのでしょうか。
まず知っておいてほしいのは、通知が出た=つけられた、とは限らないことです。GoogleのAndroidヘルプは「アイテムを借りた場合や、トラッカーを身に着けている人と一緒に移動しているときに、不明なトラッキング アラートが届くことがあります」と書いています。同僚の持ち物や、借りた車でも起こります。
そのうえで、確かめる手順は次のとおりです(AppleとGoogleの案内をもとにしています)。
- STEP
通知をタップして、そのタグが近くにあるかを確かめる
地図が開き、検出された場所が表示されます。
- STEP
「音を鳴らす」を選んで探す
Googleのヘルプは「音を鳴らしても、所有者に通知されることはありません」と明記しています。上着のポケット、カバンの外ポケット、車の中など、ふだんあまり確認しない場所を見てください。
- STEP
見つかったら、記録してから動作を止める
タグに近づけると持ち主の情報(シリアル番号や電話番号の下4桁)が表示されます。Appleは「記録のために持ち物と持ち主の情報のスクリーンショットを撮影します」と案内しており、そのうえで無効にする手順が用意されています。
- STEP
見つからないときは、すでに近くにない可能性がある
音が鳴らない、探しても見当たらないときは、そのタグがもう手元から離れていることがあります。
身の危険を感じるときは、安全な公共の場所へ移動して、警察に相談してください。AppleもGoogleも、この案内を明記しています。
そもそもオフになっていないことがある(iPhoneの場合)
もう1つ、見落としやすい点があります。
iPhoneやiPadで、画面のすみからスワイプして呼び出すコントロールセンター。あそこのBluetoothのボタンを押しても、Bluetoothはオフになりません。
Appleのサポート記事には、こう書かれています。
「コントロールセンターでWi-FiまたはBluetoothのボタンを切り替えると、その場ですぐにWi-Fi接続が途切れ、Bluetoothアクセサリとデバイスとの接続が解除されます。Wi-FiもBluetoothも引き続き利用できる状態なので、以下の機能はその後も支障なく使えます」
切れるのは、いま音楽を聴いているイヤホンなど一部の機器との接続だけです(Apple Watch や Apple Pencil などは例外で、つながったままになります)。そのうえ、この状態は現地時刻の午前5時になると解除されます(再起動でも戻ります)。
完全にオフにしたいときは、設定アプリの「Bluetooth」から切ってください。
なお同じ記事でAppleは「iOS デバイスや iPadOS デバイスを快適に使えるように、Wi-Fi と Bluetooth はなるべくオンにしておくようにしてください」とも書いています。安全性の話ではありませんが、メーカーが常時オフを前提にしていないことは分かります。
会社でBluetoothイヤホンが禁止されるのはなぜ?

「家では気にしていないのに、会社のパソコンではBluetoothが使えない」。そんな職場もあります。
これは、家庭と会社では守っているものが違うためです。
理由として挙げられるのは、たとえば次のようなものです。
- Bluetoothはイヤホンだけのものではない:同じ機能でファイルの受け渡しやテザリングもできます。会社の端末では機能ごと止めるので、イヤホンも巻き添えで使えなくなる
- つながっている機器を把握しきれない:会社は「どの機器が社内の端末につながっているか」を管理する必要がある
- アップデートが行き届かない:弱点の対策はアップデートですが、社員の私物のイヤホンまで会社は面倒を見られない
これらはいずれも、「Bluetoothは危険だから」というより、管理の外にある経路を増やしたくない、という発想に近いものです。私物のUSBメモリが禁止されるのと似た理屈だと考えると、飲み込みやすいと思います。
なお、すべての会社に当てはまる決まりがあるわけではありません。禁止するかどうかも、その範囲も、職場ごとのルール次第です。
では、聞かれた側は何をすればよいのでしょうか。取れる手は3つです。
- まず自分の職場の規程を確かめる:使ってよいかどうかは、この記事ではなく規程が決めます
- 有線のイヤホンに替える:会議の音声が目的なら、これがいちばん早い
- 会社が支給する機器を使えないか聞く:更新を会社が管理できるので、上の3つの理由がそのまま解消します
⚠ 禁止されている環境で、USBの受信機(ドングル)を挿して回避するのはやめてください。管理の外に経路を作るという点では同じで、そちらも規程で止められていることがあります。
Bluetoothのセキュリティ対策として、実際にやること4つ

やることは多くありません。次の4つで足ります。
- STEP
スマートフォンと機器を、ときどきアップデートする
この記事で見た手口の対策は、ほぼこれに集約されます。スマートフォンだけでなく、イヤホンやスピーカーそのものもメーカーのアプリから更新できることがあります。
- STEP
ペアリングで数字が出たら、必ず両方を見比べる
割り込みがないことを確かめるための手順です。面倒でも、一度だけ目を通してください。
- STEP
使わなくなった機器の登録を消す
設定のBluetoothの画面には、登録済みの機器と、近くにあって登録できる機器が別々に並びます。見覚えのない名前が後者に出ていても、つながっているわけではありません。消すべきなのは前者のほうで、手放した車のカーナビや、人にゆずった機器が残っていることがあります。
- STEP
身に覚えのない通知が来たら、その場で確かめる
「あなたと一緒に移動しています」といった通知が出たときの手順は、前の章に置きました。放置せず、その場で確かめてください。
逆に、やらなくていいことも挙げておきます。
- 四六時中オフにして回ること:自分のスマートフォンを狙う手口には効きますが、イヤホン側の欠陥とタグの追跡には効かず、iPhoneでは通知も受け取れなくなります
- コントロールセンターで切って安心すること:切れているのは一部の接続だけで、午前5時には戻ります(iPhoneの場合)
電車やカフェでイヤホンを使うこと自体は、この4つができていれば過度に不安がる必要はありません。
まとめ
この記事では、Bluetoothのセキュリティについて、実際に起きること・起きないことと、やるべきこと・やらなくていいことを解説しました。
あらためて要点をまとめると、次のとおりです。
- 知らない機器が勝手につながることはふつうはない。ただし2026年、その確認を省いていた機器が数億台見つかった
- この記事で見た手口は、いずれも電波の届く範囲に相手がいることが前提。対策はアップデート
- オフは、自分のスマートフォンを狙う手口には効く。効かないのはイヤホン側の欠陥と、タグによる追跡のほう
- オフにしても忘れ物防止タグの追跡は止められない。iPhoneではむしろ通知を受け取れなくなる
- iPhoneのコントロールセンターのボタンではBluetoothはオフにならない(午前5時に戻る)
守り方は「オフにするかどうか」だけではなく、更新されているか、そして気づけるかで決まります。まずは手元の機器のアップデートから確かめてみてください。



