お店やホテルのフリーWi-Fi|届出・合いことば・分けかたの決め方

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お店や宿で、お客さん用のWi-Fiを出している。あるいは、これから出そうとしている。レジの横に「Wi-Fiあります」の紙を貼って、その下にパスワードを書いてある。

ふと不安になることはありませんか。「これでいいんだろうか」「もし何か起きたら、うちの責任になるんだろうか」。かといって、聞ける相手もいない。

実は、総務省が「お店の側」を名指しした手引きを出しています。飲食店・小売店・宿泊施設・医療機関を対象に挙げた、提供する人のための資料です。

そこには、いま多くの店で見かけるやり方と逆のことが書かれています。

先に結論

合いことばを壁に貼ると、暗号化の効き目は落ちます。総務省は「望ましくありません」と書いています。貼るなら、そのことを承知したうえで貼ります。

貼り紙に書くのは合いことばだけではありません。お客さんはその紙を見て、つなぐかどうかを決めているからです。

本業のサービスとして出すか、無料で出すか。どちらか一方に当てはまれば、届出は要りません。ただし「何の義務もない」という意味ではありません。

そしてお客さん用と、店の業務用が分かれているか。ここだけは、機器を触らなくても業者に確かめられます。

この記事では、ITの担当者がいないお店や宿の方に向けて、機器を買い替えたり設定画面を開いたりしなくても、今日その場で確かめられること・直せることを、総務省の資料をもとに解説していきます。

Wi-Fiの合いことばを、壁に貼っていいのか

中央に濃紺の大きな鍵が1本あり、そこから水色の線が4本のびて、まわりに置かれた4台のノートパソコンにつながっている図。「つないでいる人全員が、同じひとつの鍵を使っている」「鍵が知られていれば、暗号化の目的は達せられない」と書かれている。

まず、提供する側にいちばん多いやり方から見ていきます。合いことば(パスワード)を紙に書いて、店内に貼るやり方です。

これは例外的なやり方ではありません。総務省が提供者に対して行った調査でも、いちばん多い伝え方でした。

暗号鍵の利用者への伝達方法割合
利用場所への掲示(広く周知)61%
案内紙を利用者のみに配付17%
登録画面・メールで利用者のみに通知15%
ホームページ等に掲載11%
EAP認証等で利用者に伝えない6%

資料は「利用場所への掲示(広く周知)」が「61%で突出して高い」と書いています(令和7年度 無線LAN提供者実態調査 概要版(総務省・PDF)・暗号化しているうちの482件が回答・複数回答)。

⚠ この調査は自治体と企業を合わせた提供者に聞いたもので、有効回答845件のうち699件が地方自治体です。「飲食店の何%が」という数字ではありません。この記事でこのあと出てくる数字も、すべて同じ調査のものです。

ところが、同じ総務省の手引きは、これを「望ましくありません」と書いています。

手引きの記述

「例えば、WPA2を利用している場合に暗号化キーを掲示して誰もが知りうる状態においてしまうと、通信を覗き見られるリスクを下げるという暗号化の目的を十分に達することができないため注意が必要です」

「WPA2パーソナル方式にはこうした特徴があるため、暗号化キーを掲示して誰もが知りうる状態においてしまうことは望ましくありません」

出典は公衆Wi-Fi提供者向け セキュリティ対策の手引き(総務省・PDF)です。令和7年2月版で、飲食店や宿泊施設を対象に名指しした資料です。

Wi-Fiのパスワードを貼ると、なぜ効き目が落ちるのか

理由は、いま多くのお店が使っている暗号化のしくみにあります。手引きはこう説明しています。

手引きの記述

「この方式では、公衆Wi-Fiに接続する人全員が同じ暗号化キーを共有しており、この暗号化キーが第三者に知られない状態であれば、通信内容を解読される心配はありません」

「一方で、暗号化キーが知られている場合、公衆Wi-Fiの通信内容は、条件が整えば比較的容易に解読されてしまいます」

手引きが「WPA2パーソナル(WPA2-PSK)」と呼んでいる方式は、つないでいる人全員が、同じひとつの鍵を共有するつくりです。費用をかけずに手軽に使えるので、多くのお店で使われています。

建物にたとえると分かりやすいかもしれません。入口の鍵を全員に同じものを配っておいて、その鍵そのものを入口の横に貼っておく。中に入れるのは便利ですが、鍵は「知らない人には分からないもの」ではなくなります。手引きの言い方では、暗号化の目的を「十分に」達することができない状態です。

そのうえ、影響はもうひとつあります。手引きはこう続けます。

手引きの記述

「加えて、暗号化キーが分かっていれば、同じSSID(ネットワーク名)と暗号化キーを設定することで、偽の公衆Wi-Fiを設置して、容易に通信内容を盗むことも可能となります」

つまり、貼り紙を写真に撮れば、お店とまったく同じ名前・同じ合いことばの偽物を用意できてしまうということです。お客さんの側からは見分けがつきません。

なお、暗号化の方式そのもの(WPA2 と WPA3 の違い)は、家庭のWi-Fiの話として別の記事にまとめています。

貼るしかないときに、できること

とはいえ、お客さんに合いことばを伝えないわけにはいきません。手引きも「貼るな」で終わってはいません。挙げているのは2つです。

  • Wi-Fiを必要とする利用者に、暗号化キーを記した用紙を個別に配付する(伝票に添える、席で渡す、といったやり方)
  • 定期的に暗号化キーを変更して、暗号化キーを知りうる人を少ない状態にする

実際、先ほどの調査でも「案内紙を利用者のみに配付」が17%ありました。少数派ですが、やっているところはやっています。

ここで注意したいのは、どちらも「誰もが知りうる状態」を避けるための対策だということです。全員が同じ鍵を共有する仕組みそのものは変わりません

また、変更の頻度について手引きは「定期的に」としか書いていません。「何か月ごと」という目安は示されていないので、この記事でも書きません。

そして手引きは、暗号化しないという選択も否定していません。「Wi-Fiの提供状況によっては、暗号化キーを利用者に伝えることが困難な場合もあり、状況とリスクを総合的に判断し、暗号化を実施しないことも現状ではやむを得ない場合があります」としたうえで、こう条件を付けています。

「この場合には、利用者に対するリスクの周知を適切に行う必要があります」。やめるなら、そのぶん伝える。その伝える場所が、次の貼り紙です。

ここまで読んで、「うちは1人でやっているから、個別に配るのも定期的に変えるのも無理だ」と思った方もいるはずです。手引きは掲示を「望ましくありません」としていますが、それでも貼るなら、次の貼り紙に店名と正しいネットワーク名を足してください。手引きが「偽の公衆Wi-Fiの注意喚起」とセットで挙げているのが、まさに「正しいSSID(ネットワーク名)…の周知」だからです(次の節で引用します)。

Wi-Fiの貼り紙は、合いことばを伝えるためだけの紙ではない

濃紺の枠で囲まれた白い横長のカードが1枚あり、その中に「提供者と利用条件」「対策の有無と内容」「危険性と安全な使い方」の3行が縦に並んでいる図。上に「貼り紙に書くのは、合いことばだけではない」と書かれている。

貼り紙は「合いことばを知らせる紙」だと思われがちですが、お客さんの側は別の使い方をしています。

当サイトでは、フリーWi-Fiを使う側の記事も書いています。そこで案内しているのは、掲示に書かれた名前と一覧に出ている名前が一字一句同じかを見ること、そして掲示が見当たらず、誰が出しているWi-Fiか分からないなら、それだけで見送る理由になるということです。

つまり貼り紙は、お客さんが「つなぐか、やめておくか」を決めるための材料でもあります。書いていなければ、慎重な人ほど使いません。

では何を書けばいいのか。手引きは3つ挙げています。

利用者に提供する情報(手引き 3-5)

「・サービスの提供者と利用条件(料金や利用時間など)

・セキュリティ対策の有無と内容(暗号化方式や認証方法など)

・Wi-Fiの危険性と安全な使い方(偽の公衆Wi-Fiの注意喚起と、正しいSSID(ネットワーク名)やキャプティブポータルの画面・URLの周知など)」

手引きはこの3つを、「提供条件が明らかでないWi-Fiは、利用者に不安を与える可能性があります」という理由から挙げています。

お店の言葉に置き換えると、こうなります。

手引きの項目貼り紙に書くこと
提供者と利用条件誰が出しているWi-Fiか(店名)。無料か、時間の制限があるか
対策の有無と内容合いことばが要るのか要らないのか。暗号化していないなら、そのこと
危険性と安全な使い方正しいネットワーク名(SSID)はこれ、と書いておくこと。同じ名前の偽物に注意してほしいこと

このうちお客さんがいちばん先に探すのは、いちばん上の「店名」です。当サイトのつなぐ側の記事でも、そこを見て決めるよう案内しています。

ネットワーク名(SSID)そのものの決め方は、別の記事で扱っています。

書けていないのは、あなたの店だけではない

「うちは何も書いていない」と気になった方へ。同じ調査には、こんな数字も出ています(母数は現在提供している766件・複数回答)。

つないだ最初の画面で出している情報割合
提供者名称40%
利用条件39%
セキュリティ注意喚起31%
個人情報取扱方針29%
暗号化の有無・方式18%
最初の画面そのものが無い30%

⚠ この表はつないだ最初の画面(キャプティブポータル)で何を出しているかを聞いた設問で、貼り紙について測ったものではありません。伝え方を限定していないのは、次の設問のほうです。お客さんへの注意喚起として何を伝えているかを聞いたところ、「特に説明していない」が42%で突出して高いという結果でした。「SSIDを確認すること」は18%、「偽のアクセスポイントに注意」は6%です。

つまり、伝える手段が何であれ、セキュリティについては4割が何も伝えていないということです。裏を返せば、店名と、正しいネットワーク名を書いた紙が1枚あるだけで、伝えている側に回れる。費用はかかりません。

この「つないだ最初の画面」を、使う側から見るとどう映るかは別の記事にまとめています。何を入力してよいのか、出てこないときにどうするのかを扱っています。

お客さん用のWi-Fiと、店の業務用を分ける

左にある濃紺の箱から水色の線が2本のび、上の線は3台のスマートフォンへ、下の線は2台のノートパソコンへつながっている図。2本の線のあいだには濃紺の板が立っている。上の並びに「お客さん用」、下の並びに「店の業務用」と書かれ、上に「お客さん用と、店の業務用を分ける」とある。

ここからは、貼り紙では解決しない話です。手引きは、実際に起きたことをもとにした例をひとつ挙げています。

手引きが挙げる例

「あるホテルで利用者に向けた公衆Wi-Fiを提供することになりました。経費を抑えるためにホテルの業務用に使っているネットワークを用いて公衆Wi-Fiの提供を開始しました」

「数日後、宿泊者からホテル事務室のコピー機に保存されているファイルが、宿泊者のパソコンから見える状態になっている、との報告を受けました」

事務室のコピー機に、宿泊者のパソコンから手が届いてしまった。原因は「業務用のネットワークと宿泊者に提供しているネットワークの分離が適切にできていなかったこと」でした。

この「分ける」は、業者からは「ゲストWi-Fi」「ゲストポート」「ゲストSSID」と呼ばれることがあります(機器やメーカー側の呼び名で、手引きの用語ではありません)。呼び名は違っても、お客さん用を業務用から切り離す、という同じ話です。

手引きはこの点を、はっきりした言い方で書いています。

手引きの記述

「自社・自組織で業務用に利用しているネットワークを使って公衆Wi-Fiを提供することは避けましょう。業務用のパソコンなどに公衆Wi-Fiからアクセスされるなど、不正アクセスの被害を受けるおそれがあります」

ここで大事なのは、これは「よくある手抜き」ではないということです。先ほどの提供者への調査では、物理的な分離と論理的な分離を合わせて92%が実施済みで、資料も「業務用ネットワークとの分離は概ね実施されている」と書いています。

つまり、多くのところは分けています。問題は別のところにあります。

実態は「やっていない」ではなく「分かっていない」

同じ調査の別の設問を並べると、様子が変わります。

設問資料の書きぶり
端末どうしの折り返し通信「わからない」が39%で最多
アクセスログの保存「保存有無不明」が26%で最多
データ保護の規程・責任者「規程も責任者も不明/わからない」が合計50%

いちばん多い答えが「わからない」なのです。やっていないのではなく、どうなっているかを把握していない。業者に入れてもらったまま、中身を聞いていないという状態です。

これは、機器を触らなくても解けます。入れてくれた業者に聞けばいいからです。聞くことは4つで足ります。

  • お客さん用のWi-Fiと、レジや事務所のパソコンは別のネットワーク(ゲストWi-Fi)になっていますか
  • お客さんどうしの端末は、お互いに通信できない設定になっていますか
  • 接続の記録(アクセスログ)は残っていますか。残っているなら、どのくらいの期間ですか
  • 暗号化しているなら、方式はWPA2ですか、WPA3ですか(手引きは「暗号化を行う場合は」このどちらかを設定するよう書いています)

⚠ ただし何か月残せばよいかの目安は、手引きに書かれていません。この記事でも書きません(記録そのものの扱いは、この見出しの最後の項「記録があると、疑われたときに自分を守れる」でまとめて触れます)。

もし「分けていません」という答えだったら。手引きが挙げている分け方は2つです。線そのものを別にする物理分離と、1本の線の中で仕切りを立てる論理分離。後者でよく使われるのがVLANという技術で、手引きも「VLAN技術などを用いて論理的に別のネットワークを構築(論理分離)して」と書いています。

そのうえで、インターネットにつなぐ回線を1本のまま使う場合についても書き添えています。「パケットフィルタやファイアウォールなどの対策により、業務用のネットワークと公衆Wi-Fi提供用のネットワークの分離を確実に行いましょう」。回線をもう1本引かないと分けられない、というわけではありません。仕組みと、会社のネットワークが1本道でどうつながっているかは、別の記事で扱っています。

お客さんどうしも、つながらないようにする

もうひとつ、手引きが挙げている例があります。今度はカフェの話です。

手引きが挙げる例

「後日、カフェで公衆Wi-Fiに繋いでブログを書いているBさんが自分のパソコンの中にあるファイルを開こうとしたところ、ほかの人がそのファイルを開いていると表示されました。知らない人からパソコンの中のファイルを覗かれてしまっていたのです」

お店の側は、SSIDを自分の店だと分かる名前に変えただけで、あとの設定は確認せずに提供を始めていました。

手引きは、家庭やオフィスとの違いをこう説明しています。「オフィスや家庭用のWi-Fiルーター(アクセスポイント)では、同じネットワークに接続した端末同士が情報共有などのために相互に通信可能となっていることがあります。しかし、不特定多数の人が接続する公衆Wi-Fiでは、こうした相互通信がセキュリティ上の問題になりかねません」。

家では便利な設定が、お店では困った設定になる、ということです。

そして手引きは「一般的なWi-Fiルーターには、相互通信を禁止する機能が搭載されています」と書いています。多くの場合、機器を買い足さなくても設定で足りるということです。

ただし呼び名がそろっていません。手引きの脚注は、プライバシーセパレータ・クライアントアイソレーション・ピアツーピアブロッキングという3つを挙げています。メーカーによって呼び名が違うので、業者に聞くときはこの3つを並べて伝えると通じます。

設定画面の開き方や操作の手順は機種によって違うため、この記事では扱いません。自分で見てみたい場合は、こちらの記事に入口の手順があります。

記録があると、疑われたときに自分を守れる

もうひとつ、接続の記録(アクセスログ)の話をしておきます。手引きはこう書いています。

手引きの記述

「特に利用者がWi-Fiルーターを用いて外部通信を行う際のIPアドレスが、業務用ネットワークと同一のものである場合には、不正アクセスが業務用ネットワークから行われていないことを証明する大切な証拠になります」

お店のWi-Fiを使った誰かが、外で悪いことをしたとします。外から見えるのは、お店の回線に割り当てられた番号(グローバルIPアドレス)だけです。とくにお客さん用と業務用が同じ回線を通っていると、外から見える番号も同じになり、調べる側にはお店がやったのか、お客さんの誰かがやったのかが分かりません

手引きが「大切な証拠になります」と言っているのは、まさにこの番号が同じになってしまう場合です。記録が残っていれば、そこから「これは店の側ではない」と示せます。接続の記録は、お客さんのためだけのものではなく、お店が自分を守るための材料でもあるということです。

なお、記録の扱いには制限があります。手引きは「目的に照らして必要最小限の範囲内での記録にとどめましょう」とし、「利用者の同意なくマーケティングなどの目的に使うことや、第三者に提供することなどのないよう、十分に注意して取り扱いましょう」と書いています。残していい/使っていい、は別の話です。

お店がWi-Fiを出すと、届出が要る事業になるのか

同じ大きさ・同じ形の白い角丸長方形が2つ横に並んでいる図。左には「届出は要らない」「本業に付随して出す」「または 無料で出す」、右には「届出が要る」「有料にする」「広告収入を得る」と書かれている。上に「決めているのは、お金の取り方」とある。

「お客さんに通信を提供する」と聞くと、役所への手続きが必要なのではと不安になります。ここは、資料がはっきり答えています。

まず出発点は「必要」です。総務省の無線LANビジネスガイドライン(総務省・PDF)(令和元年9月最終改定)は「無線LANアクセスポイントを設置して、利用者に公衆無線LANサービスを事業として提供する場合は、原則として事業法第9条の登録又は同法第16条第1項の届出が必要となる」と書いています。

そのうえで、不要になる場合を挙げています。お店に当てはまるのは次の2つで、原文はこう書かれています。

ガイドラインの記述(2.1.2 登録又は届出が不要なもの)

(1) 本来の業務に付随して公衆無線LANサービスを提供する場合

例えば、喫茶店オーナーが、来店者が利用できるよう店内にアクセスポイントを設置する場合、本来の業務(飲食物の提供)に付随したサービスの提供を行っているものと捉えられる場合には、原則として、事業法に基づく登録又は届出を不要としている。

(2) 対価を得ずに公衆無線LANサービスを提供する場合

対価としての利用料等を得ずに公衆無線LANサービスを提供する場合は、基本的に、「電気通信事業を営む」ことに該当しないため、登録、届出ともに不要である(事業法第2条参照)。

喫茶店が例として名指しされています。(1)と(2)は別々の理由で、どちらか一方に当てはまれば不要です。飲食店なら(1)、商店街が集客のために無償で出すなら(2)、という具合です。

同じ判断は電気通信事業参入マニュアル[追補版](総務省・PDF)(令和5年1月改定)にも表の形で載っています。「商業施設や観光施設等の施設管理者等が、来場者が利用できるように施設内にアクセスポイントを設置して、公衆無線LANサービスを提供するもの」は、非電気通信事業(事業法規律対象外)と判断される、と書かれています。

理由は「電気通信役務の提供が独立した事業として把握できないことから」。Wi-Fiが商売そのものになっていないから、という考え方です。

有料にしたり、広告で稼いだりすると変わる

逆に、次のどれか1つでも当てはまると、登録または届出が必要な側に移ります。

  • 有料で提供する場合。「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介している」とみなされます
  • 無料でも、広告収入を得るなど実質的に利益を上げているとみなされる場合。ガイドラインも参入マニュアルも、この点をわざわざ書き添えています
  • 施設管理者からアクセスポイントを借り受けて、来場者に通信を提供する事業を営む場合

気をつけたいのは2つめです。「無料だから大丈夫」と単純には言えません。つないだ最初の画面に広告を出して収入を得るようなやり方は、この線に触れる可能性があります。

自分の店がどちらなのか判断がつかないときは、ガイドライン自身が問い合わせ先を案内しています。「事業法上必要となる手続について疑義がある場合は、本ガイドラインの参考資料2に記載のある各地域を管轄する総合通信局等に適宜御連絡ください」。

届出が要らないことは、「何もなし」という意味ではない

ここが混同されやすいところです。届出が要らないと聞くと、通信について何の縛りもないように思えます。

ところが手引きのほうは、提供者について「利用者の情報を厳格に管理する法的な責任が課せられます」と書いています。矛盾しているように見えますが、そうではありません。ガイドラインの脚注に答えがあります。

ガイドラインの脚注

「電気通信事業者以外の者が提供する公衆無線LANサービスについては、有線電気通信部分における通信の秘密は、有線電気通信法(昭和28年法律第96号)第9条及び第14条により、無線通信部分における通信の秘密は、電波法(昭和25年法律第131号)第59条、第109条及び第109条の2により保護される」

つまり、届出が要るかどうかと、お客さんの通信を守る義務があるかどうかは、別の法律の話です。届出が不要なお店でも、通信の秘密は別の法律で守られています。

「通信の秘密」の範囲も広く取られていて、ガイドラインは中身だけでなく「通信当事者の氏名、発信場所、通信日時、通信量やヘッダ情報等の構成要素、通信の存否の事実、通信の個数なども含む広範なもの」としています。誰が、いつ、どこへつないだかも入るということです。

お店として押さえるのはひとつで十分です。届出が要らないことは、お客さんの通信を見ていいという意味ではありません。

法律や国の資料が書いていることは、強さが3段階ちがう

① 手引きの「望ましくありません」(合いことばの掲示)——手引きは「〜しましょう」「〜が望まれます」という書き方で、これを守らなければ違反になる、とは書いていません。暗号化しないことさえ「やむを得ない場合があります」としています。

② 届出(電気通信事業法)——こちらは法律が要否を決めています。ただしお店が本業に付随して、または無料で出すぶんには要りません。

③ 通信の秘密(有線電気通信法・電波法ほか)——法律で保護されているもので、届出が要らない提供者にも及びます。

①と③を、ひとまとめにしないでください。合いことばを貼っていることと、お客さんの通信を覗くことは、資料の中でまったく違う扱いです。⚠ なお、③には罰条が挙げられていますが、お店の場合にどこからが違反になるのかを当てはめた記述は、どの資料にもありません。この記事でもそこには踏み込みません。

「このWi-Fi、安全ですか」と聞かれたら何と答えるか

濃紺の枠の中に白い横長の棒が3本縦に並び、枠の外の右側に同じ形の棒がもう1本置かれている図。枠の中の3本には「合いことばの渡し方」「貼り紙」「分けること」、外の1本には「同じ名前の偽物」と書かれ、それぞれに「手を打てる」「手を打てない」の見出しが付いている。上に「お店の側で手を打てること、打てないこと」とある。

最後に、お客さんから直接聞かれたときの話です。上の図で「手を打てない」側に残っているものが、「言えないこと」の筆頭になります。

結論から言うと、「絶対に安全です」とは言えません。手引き自身が、偽の公衆Wi-Fiについてこう書いているからです。

手引きの記述(偽の公衆Wi-Fi対策)

「しかし、公衆Wi-Fiの提供者が取れる対策は限られており、利用者側での対策が必須です」

お店とまったく同じ名前を名乗る偽物を、お店の側から止める手段はほとんどありません。だから手引きは、提供者に対して「継続した周知啓発活動が不可欠です」という言い方をしています。偽物についてだけは、防ぐのではなく伝えるほうに回る、という整理です。

ここまでに出てきた合いことばの渡し方や分離は、お店の側で手を打てることでした。偽物だけが、手を打てない側に残ります。

そう考えると、答えられることと答えられないことが、きれいに分かれます。

言えること言えないこと
正しいネットワーク名(SSID)はこれですいま出ている同じ名前が本物かどうか
合いことばが要ります/要りませんほかのお客さんが何をしているか
合いことばは店内に貼っています/お渡しします通信が絶対に見られないかどうか
お客さん用と店の業務用は分けていますお客さんの端末側のことすべて

左側は、そのまま貼り紙に書ける内容でもあります。聞かれてから答えるより、先に書いておくほうが早いということです。

利用規約と、登録・認証は別のもの

提供者への調査では、利用規約を「定めている」提供者が59%で最多でした。多くのところが用意している、ということです。

ただし、規約が要るかどうかを定めた記述は、手引きにもガイドラインにもありません。義務ではなく、多くのところが自分で用意している——というのが実態です。

ただし、規約と、この次に出てくる「登録させるかどうか」は別のものです。規約は使い方の取り決め、登録や認証は誰が使ったかを確かめる仕組み。手引きが節を設けているのは登録・認証のほう(4-4 利用者情報の適切な確認)で、利用規約は脚注で一度触れられるだけです。

⚠ 規約に何をどう書くかは、手引きにもガイドラインにも書かれていません。この記事でも書きません。書けるのは、定めている提供者が59%いるという実態までです。

お客さんの名前やメールアドレスを登録させるべきか

もうひとつよく迷うのが、つなぐ前にメールアドレスなどを入力してもらう仕組みを入れるかどうかです。

手引きは「すべての公衆Wi-Fiに必須となる対策ではありませんが、提供する公衆Wi-Fiを守るために導入を検討してみてください」と書いています。そのうえで、必ずしも必要ではない例を図で挙げていて、そこに出てくるのが、まさにお店と宿です。

手引きが図で挙げている例添えられた説明
ホテル客室棟で提供される公衆Wi-Fi客室ごとに公衆Wi-Fiが提供されるホテルなどではチェックイン時に利用者を確認できる
レストランやカフェなどの店舗内に設置される公衆Wi-Fi店員の目視や監視カメラなどで利用者を特定しやすい

誰が来ているかを店の側で把握できているなら、Wi-Fiの仕組みで重ねて確認しなくてもよい、という考え方です。逆に必要とされているのは「路上に設置された公衆Wi-Fi」「屋外イベントなど、開かれた空間で多くの人が自由に出入りし、利用する公衆Wi-Fi」でした。

⚠ ただし手引きは、この例に留保を付けています。「これらの場合でも、サービス環境や利用者の状況に応じて、利用者情報の確認や認証を行うことが適切な場合もあります」。「店なら要らない」と決めつけられるものではありません。

なお、登録してもらう場合は個人情報を預かることになります。ガイドラインは「不必要な個人情報の取得は避け、公衆無線LANサービスや当該サービスと関連するサービスの提供に真に必要であるかを吟味することが望ましい」としています。集めれば集めるほど、守る責任が増えると考えてください。

まとめ

この記事では、お店や宿がお客さん用のWi-Fiを出すときに確かめておきたいことを、総務省の資料をもとに解説しました。

  • 合いことばを壁に貼ると、暗号化の目的は十分に達せられない。いま多く使われている方式は全員が同じ鍵を共有するつくりで、鍵が知られていれば「条件が整えば比較的容易に解読」され、同じ名前・同じ鍵の偽物も作れる
  • 手引きが挙げる代わりのやり方は2つだけ用紙を個別に配るか、定期的に変えるか。どちらも「誰もが知りうる状態」を避けるためのもので、全員が同じ鍵を共有する仕組みそのものは変わらない(変更の頻度は資料に書かれていない)
  • 貼り紙は、お客さんがつなぐかどうかを決めるための紙。手引きが挙げるのは提供者と利用条件/対策の有無と内容/危険性と安全な使い方の3つで、お客さんがいちばん先に探すのは店名
  • お客さん用と、店の業務用を分ける(業者からは「ゲストWi-Fi」と呼ばれる)。ホテルの事務室のコピー機が宿泊者から見えていた例が資料に載っている。⚠ ただし提供者への調査では分離そのものは92%が実施済みで、実態は「やっていない」ではなく「わからない」が最多
  • だから機器を触らず、業者に4つ聞けばいい別のネットワークか/お客さんどうしは通信できない設定か/記録は残っているか/暗号化の方式はWPA2かWPA3か。端末どうしを遮る機能は多くの場合、買い足さなくても設定で足りる(呼び名はプライバシーセパレータほか3通り)
  • 「分けていません」と言われたら、手引きが挙げる分け方は物理分離と論理分離(VLAN)の2つ。⚠ 回線をもう1本引かないと分けられない、というわけではない(1本の回線でも、パケットフィルタやファイアウォールで分けるよう書かれている)。⚠ 記録を何か月残すかの目安は、手引きに書かれていない
  • 接続の記録は、お店が自分を守る材料でもある。外から見えるのは店の回線の番号(グローバルIPアドレス)だけで、お客さん用と業務用が同じ回線だと番号も同じになる。手引きは、まさにその場合に記録が「大切な証拠になります」と書いている
  • 本業に付随して、または無料で出すなら、届出は要らない(喫茶店が資料に例示されている)。⚠ 有料にする・広告収入を得ると、登録または届出が要る側に移る。判断に迷うときは総合通信局に問い合わせられる
  • 届出が要らないことは「何もなし」ではない。届出が不要な提供者でも、通信の秘密は有線電気通信法と電波法で保護される。誰がいつどこへつないだかも「通信の秘密」に入る
  • ⚠⚠ 法律や国の資料が書いていることは、強さが3段階ちがう。手引きの「望ましくありません」は推奨の書き方(守らなければ違反、とは書かれていない)/届出は法律が要否を決めている/通信の秘密は法律で保護されているこの3つをひとまとめにしない(利用規約は、これとは別に店が自分で定める取り決め
  • 「絶対に安全です」とは言えない偽物だけは、お店の側から止める手段がほとんど無いためで、手引き自身が「提供者が取れる対策は限られており、利用者側での対策が必須です」と書いている。だから偽物については防ぐのではなく、正しい名前を伝えるほうに回る
  • 利用規約と、登録・認証は別のもの。規約は使い方の取り決め、登録は誰が使ったかを確かめる仕組み。⚠ 規約に何を書くかは手引きにもガイドラインにも無いので、この記事では書いていない(定めている提供者は59%)
  • メールアドレス等の登録は必須ではない。手引きはホテル客室棟とレストラン・カフェを「必ずしも必要ではない例」に挙げている(⚠ ただし「導入を検討してみてください」「適切な場合もあります」という留保つき)

今日できることは、たぶん1つです。貼り紙に店名と、正しいネットワーク名を書き足す。それだけで、お客さんが安心して選べる材料が1つ増えます。

参考: 公衆Wi-Fi提供者向け セキュリティ対策の手引き(総務省・PDF)

参考: 無線LANビジネスガイドライン(総務省・PDF)

参考: 電気通信事業参入マニュアル[追補版](総務省・PDF)

参考: 令和7年度 無線LAN提供者実態調査 概要版(総務省・PDF)

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