忘れ物防止タグはなぜ見つかる?GPSなしで位置が分かる仕組み

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鍵や財布に付けておくと、なくしたときに場所が分かる。そんな小さなタグを見たことはありませんか。

「便利そうだけど、あんな小さいものにGPSが入っているの?」「そもそも、どうやって遠くにある持ち物を見つけているんだろう」。

実はこの忘れ物防止タグ、自分がどこにいるのかを知りません。遠くで落としたとき、場所を知っているのは、たまたま近くを通りかかった他人のスマートフォンのほうです。

この記事では、ITやネットワークの知識がない方でもわかるように、忘れ物防止タグが見つかる仕組みと、見つかりやすい場所・見つかりにくい場所を解説していきます。電池が長くもつ理由や、選ぶときに見るところも扱います。

忘れ物防止タグとは?自分がどこにいるかを知らない機械

中央に丸いタグが1つ置かれ、その左右にシアンの弧が広がっている図。「タグは「ここにいます」と呼びかけているだけ」「自分がどこにいるかは知らない」と書かれている。

忘れ物防止タグは、財布や鍵に付けておくと、なくしたときにスマートフォンで場所を調べられる小さな機器です。

「紛失防止タグ」「スマートタグ」「トラッカー」とも呼ばれます。政府広報オンラインの用語解説でも、これらは同じものとして紹介されています。

まず、いちばん誤解されているところから片づけます。

タグは、人工衛星を使うGPS機器とは別のものです。政府広報オンラインも「人工衛星と通信を行うことで位置情報を取得しているGPS機器と異なり」と、はっきり区別しています。

タグは自分の居場所を計算していませんし、覚えてもいません。AppleはAirTagについて、製品ページで「位置情報や履歴がAirTagの中に保存されることもありません」と書いています。

ではタグは何をしているのか。ただ「ここにいます」と電波で呼びかけ続けているだけです。

暗い部屋で名前を呼び続けている人を想像してください。その人は自分がどの部屋にいるかを知りません。場所が分かるのは、声を聞いた側です。

この呼びかけに使われているのがBluetoothです。イヤホンをつなぐときに使う、あの近距離の無線と同じものです。

忘れ物防止タグが遠くでも見つかる理由

左下に落ちたタグ、その電波を受け取る通行人のスマートフォン、雲、右端の持ち主のスマートフォンが矢印で一列につながっている図。「拾うのは、通りかかった他人のスマートフォン」「落としたタグ」「持ち主のスマートフォン」と書かれている。

探し方には、近くにあるときと、遠くにあるときの2つがあります。

近くにあるときは簡単です。あなた自身のスマートフォンが、タグの呼びかけを直接受け取ります

ソファの隙間や郵便物の山にまぎれた鍵なら、これで足ります。アプリから合図を送ってタグ本体の音を鳴らせる製品も多く、この探し方に他人は一切関わりません。

問題は、外で落としたときです。Bluetoothは手元の機器どうしをつなぐための近距離の無線で、街の反対側まで届くようなものではありません。

それなのに、なぜ街のどこかで落とした鍵が見つかるのでしょうか。

拾っているのは、すれ違った他人のスマートフォン

答えは、あなたのスマートフォンが受け取っているのではないということです。

Appleは前述の製品ページで、こう説明しています。

「あなたのAirTagは、近くにある『探す』ネットワーク上のデバイスが検知できるように、安全なBluetooth信号を送信します。すると、信号を受け取ったデバイスは、AirTagの位置情報をiCloudに送信」する、と。

つまり、落ちたタグの声を聞いたのはたまたま近くを通った、見ず知らずの人のスマートフォンです。そのスマートフォンが「この声を、いまここで聞きました」と代わりに報告してくれています。

Androidにも同じ仕組みがあり、Googleは「Find Hubネットワーク」と呼んでいます。

「じゃあ、通りかかった人に自分の落とし物の場所がバレるのでは?」と思いますよね。そうはなりません。

報告は中身が読めない状態に封をしてから送られます。AppleはAirTagの製品ページで「AirTagの場所は、あなたしか見ることができません」「送られる位置情報は最初から最後まで暗号化されます」と書いています。

Androidの側も同じで、GoogleはFind Hubの解説で「アイテムの位置情報を表示できるのは、所有者本人と Find Hub でそのアイテムを共有しているユーザーのみです」と説明しています。

では、あいだに入る会社からはどう見えているのでしょうか。

Appleは、iPhoneやMacなど自社のデバイスを探す仕組みについて、プラットフォームセキュリティの解説でこう書いています。「探知側のユーザや見つかったデバイスの所有者がだれかをAppleが把握することはありません」。持ち主に届くのも位置だけで、「だれがデバイスを見つけたかは示されません」。

見つけた側についても同じで、Googleは前述の解説に「Androidデバイスが付近のアイテムを検出してその位置情報を共有しても、GoogleはそのAndroidデバイスの所有者を特定できません」と書いています。

もうひとつ、Appleの同じ解説には、探される側のApple製デバイスが目印にしている符号は約15分ごとに新しいものへ置き換わる、とあります。

ずっと同じ符号を出していると、それ自体が追跡の手がかりになってしまうからです。符号が入れ替われば、さっき見かけたものと、いま見えているものが同じ持ち物だと外から結び付けることができなくなります。

なお、他人のスマートフォンが代わりに報告してくれるといっても、その人の通信量を大きく使うわけではありません。Appleはこの仕組みについて「効率も良いので、バッテリー残量やデータ使用量を心配する必要はありません」と説明しています。

地図に出るのは「最後に誰かが通りかかった時点」の位置

ここまでの仕組みから、大事なことがひとつ導けます。

アプリの地図に出るのは、いまの位置ではなく、最後に誰かが通りかかったときの位置だということです。

タグは自分の居場所を知らないのですから、誰も近くを通らなければ、地図は前のまま止まります。Googleも、探している人が受け取れるのは「紛失したアイテムが検出された場所の位置情報と、そのアイテムが最後に確認されたおおよその時間」だと書いています。

つまり、忘れ物防止タグはいま動いているものを追いかけ続ける道具ではありません。持ち去られたカバンの行き先をリアルタイムで追う、といった使い方には向かないということです。

あなたのスマートフォンも、他人の忘れ物防止タグを探している

スマートフォンを持った3人が立ち、足元に置かれた2つのタグから弧がそれぞれのスマートフォンへ伸びている図。「あなたのスマートフォンも、探す側になっている」「持っているだけで、ネットワークの一員」と書かれている。

ここが、この仕組みでいちばん見落とされているところです。

他人のスマートフォンが探してくれるということは、裏を返せばあなたのスマートフォンも、見知らぬ誰かの落とし物を探しているということです。

しかも、タグを1つも持っていない人でもです。

GoogleのFind Hubのヘルプには、Androidは「デフォルトで……Find Hubネットワークにも自動的に参加します」と書かれています。参加した端末は「Bluetoothを使用して付近のアイテムをスキャン」し、見つけたものの位置を送ります。

iPhoneやiPad、Macも同じです。Appleは前述のプラットフォームセキュリティの解説で、「『オフラインのデバイスを探す』がオンになっているすべての」端末が探す側の役割を果たせる、と説明しています。

気味が悪く感じるかもしれませんが、これはお互いさまで成り立つ仕組みです。参加している端末が多いほど、自分の落とし物も見つかりやすくなります。

そして、この参加のしかたは自分で選べます。Googleのヘルプによれば、Android側の設定には次の4つがあります。

ここで選ぶのは「他人の落とし物をどこまで手伝うか」です。自分のタグの探し方の設定ではないので、混同しないでください。

  • OFF … オフラインで探す機能を完全に使わない
  • ネットワークを使用しない … 自分の端末とイヤホンなどは探せるが、タグは探せなくなる
  • 人通りの多い場所でのみネットワークを使用する … 人通りの多いエリアに限って協力する
  • どこでもネットワークを使用する … 人が少ない場所でも協力する

Googleはこれを「Find Hub の設定の[オフラインのデバイスを探す]」で選べると案内しています。画面の並びは端末や世代で変わるので、実際に開くときは上記のヘルプの手順を見てください。

なお、他人のタグを自分の持ち物にこっそり入れられるという逆向きの心配については、別の記事で扱っています。無断で取り付ける行為はストーカー規制法の対象になると、政府広報オンラインも明記しています。

忘れ物防止タグが見つかりやすい場所・見つかりにくい場所

縦の点線で二分され、左は4人がスマートフォンを持ちタグの電波が届いている、右はタグが1つだけで電波が誰にも届いていない図。「見つかるかどうかは「人が通るか」で決まる」「人が多い場所」「人の通らない場所」と書かれている。

ここまで読むと、この仕組みの弱点が見えてきます。

声を聞いてくれる人が通らなければ、誰も報告してくれないのです。

駅や空港、繁華街のように人が絶えない場所は得意です。逆に、夜間の駐車場や山の中のような、人の通らない場所は苦手ということになります。

集約 — 複数のスマートフォンが見つけるまで待つ仕組み

実は、苦手な理由は「人がいないから」だけではありません。

Googleは前述のヘルプで、集約という仕組みを説明しています。

集約とは「紛失したアイテムに関する検出情報が、複数のAndroidデバイスから寄せられるまで待つことを意味します」と書かれています。1台が見つけただけでは、すぐには持ち主に伝わらないということです。

なぜ待つのか。理由は2つあります。

1つは精度です。Googleは「複数の位置情報レポートから割り出して集約した位置情報が、紛失したアイテムの位置として所有者に表示されます」と書いています。1台の報告をそのまま出すより、場所を絞り込めるということです。

もう1つはプライバシーです。1台の報告がそのまま伝わると、報告した人がそのときどこにいたかまで分かってしまいます。

Googleはこの仕組みについて、「空港や街中など人通りが多く落とし物をしやすい場所でアイテムを見つけることが可能になるうえ、……プライバシーを守ることもできます」と説明しています。

ただし、これは変えられます。前の節で挙げた「どこでもネットワークを使用する」を選んだ端末は、Googleいわく「その位置情報を検出したのがあなたのデバイスのみだったとしても」持ち主に共有されます。

つまり人けのない場所で見つかるかどうかは、そこを通った人の設定にも左右されるということです。

ネット上には「半径◯メートル以内に端末がないと無理」といった数字も出回っていますが、届く距離は建物や障害物で大きく変わります。数字で覚えるより、「人が通るか」で考えるほうが実態に合います。

では、公園や住宅街の道、スーパーの駐車場はどちらに入るのでしょうか。

ここは断定できません。人がいるかどうかだけでなく、その人の端末が参加しているか、どの設定を選んでいるかで変わるからです。目安にするなら「人が通るか」よりも、参加している端末が通るかと考えるほうが実態に近くなります。

なお、「圏外だから見つからないのでは」という心配は要りません。タグ自体は携帯電話の回線を使っていないので、圏外という状態がそもそもありません。回線が要るのは、電波を拾った相手のスマートフォンのほうです。

最後に見た場所から更新されないとき

地図が何日も同じ場所を指したまま動かない。落とし物を探している人がいちばん不安になる状態です。

まず、タグが壊れたとは限りません。ここまで見たとおり、近くを誰も通らなければ地図は止まったままになります。故障でなくても起きる、ふつうの動きです。

ただし、同じ「止まったまま」に見える原因がもうひとつあります。電池切れです。電池がなくなれば呼びかけも止まるので、誰かが通っても拾ってもらえず、やはり最後の場所で止まります。しばらく使っている製品なら、こちらも疑ってください。

一方で、「何日更新されなければ異常」という目安は作れません。集約が何台の報告を待つのか、どのくらいの時間で更新されるのかを、AppleもGoogleも公開していないからです。

忘れ物防止タグの電池が長くもつのはなぜ?

縦の点線で二分され、左はスマートフォンとイヤホンが双方向の矢印で結ばれ、右はタグから点線の弧が一方向へ伸びているだけの図。「つなぎ続けるか、ときどき呼びかけるだけか」「イヤホン:つなぎ続ける」「タグ:つながない」と書かれている。

ボタン電池1個で何か月も動くと聞くと、不思議に思えます。

政府広報オンラインも、紛失防止タグについて「省電力で、数か月から数年の間、充電や電池交換が不要な製品もあります」と書いています。

たとえばAppleのAirTagは、交換できるCR2032のコイン型電池で動きます。腕時計に入っているような、あの平べったい電池です。

つないでいないから、電池が減らない

理由は、タグがどこともつながっていないからです。

イヤホンをBluetoothでつなぐときは、相手と手をつないだ状態を保ち続けます。音を途切れさせないために、お互いが常にやり取りをしています。

タグはこれをしません。誰とも手をつながず、ときどき一言だけ投げるという使い方をします。

Bluetoothの規格をまとめているBluetooth SIGの解説資料は、この方式を「接続を伴わない(connectionless)通信」と呼び、1台から相手の数を限定せず一方的に送れると説明しています。

相手を待たない、返事も要らない。だから電気をほとんど使いません。

さらに同じ資料には、設計そのものが役割を非対称にしていると書かれています。スマートフォンのように電池に余裕がある側が「重い仕事」を引き受け、コイン電池で動く側の負担を減らす、という考え方です。

探し回っているのはスマートフォンのほうで、タグは声を出しているだけ。そう考えると、電池のもちの差にも納得がいきます。

この省電力の方式はBluetooth 4.0で加わったもので、Bluetooth LE(Low Energy)と呼ばれます。

なお「電池は何年もつのか」は製品によって違います。AppleはAirTagの製品ページで「1年以上使えます」と案内していますが、これは第2世代の試作機で2025年12月に測った値で、音を鳴らす機能などを毎日一定時間使った場合のものです。使い方や使う環境、交換した電池のメーカーによって変わるとも注記しています。カタログの数字はそのまま自分の環境には当てはまりません。

忘れ物防止タグの選び方 — どのネットワークを使うかで決まる

縦の点線で二分され、左は12台ほどのスマートフォンの下にタグ、右は4台のスマートフォンの下に同じタグが置かれている図。「誰の端末が探してくれるかが変わる」「スマートフォン側のネットワーク」「メーカー独自のネットワーク」と書かれている。

ここまでの話から、選ぶときに見るところがはっきりします。

大事なのは、タグの形でも色でもなく、そのタグを探してくれる端末が、世の中にどれだけあるかです。

タグが使うネットワークには、大きく2つの型があります。

探してくれる端末
スマートフォンの側が持つネットワーク
(Appleの「探す」/GoogleのFind Hub)
その設定を有効にしているiPhone・Android全般
タグのメーカーが自前で持つネットワークそのメーカーの仕組みに参加している端末

前者は、そのタグを持っていない人の端末まで探す側になるのが特徴です。Appleは「探す」ネットワークについて、10億台以上のiPhone・iPad・Macが使えると説明しています。

とはいえ、数が多いほうが必ず良いとも限りません。前の章のとおり、必要なのは「落とした場所を、その端末が通るか」だからです。

つまり、どちらを選ぶにせよ確かめるのは同じ1点です。

自分が落としそうな場所に、そのネットワークの端末が通るか。通勤で駅を使うのか、車で郊外を回るのかによって、向き不向きが変わります。

もう1つ、自分が使っているスマートフォンに合った型かどうかも先に確かめてください。商品の説明に、どのネットワークに対応しているかが書かれています。

まとめ

この記事では、忘れ物防止タグがどうやって見つかるのかを、仕組みの側から解説しました。

  • タグは人工衛星を使うGPS機器とは別物。自分の居場所を知らず、「ここにいます」と呼びかけているだけ
  • 近くにあるときは自分のスマートフォンが直接受け取る。遠くで落としたときに見つけているのは、すれ違った他人のスマートフォン
  • 地図に出るのは最後に誰かが通りかかったときの位置。いま動いているものを追い続ける道具ではない
  • 位置を見られるのは持ち主と、持ち主が共有した相手だけ。通りかかった人にも、あいだに入る会社にも中身は分からない
  • 自分のスマートフォンも探す側になっている。Androidは既定で参加し、設定で選び直せる(選ぶのは他人をどこまで手伝うか
  • Googleは複数の端末が見つけるまで待つ(集約)と説明している。人けのない場所が苦手なのはこのため
  • 電池が長もちするのはどこともつながっていないから。重い仕事はスマートフォン側が引き受ける設計になっている
  • 選ぶときはそのタグを探してくれる端末が、自分の行く場所を通るかで考える

この仕組みは、見知らぬ人どうしが互いの落とし物を探し合うことで成り立っています。あなたのスマートフォンも、その一員です。手元の設定がどうなっているか、一度確かめてみてください。

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