ワイヤレスイヤホンの商品ページに並ぶ「LDAC対応」「aptX Adaptive搭載」という文字。
「なんとなく良さそうだけど、結局なにが違うの?」と思ったまま買ってしまった方も多いのではないでしょうか。
実はこれらは、音をどうやって圧縮して送るかという方式の名前です。
この記事では、ITやネットワークの知識がない方でもわかるように、コーデックの仕組みと種類、そして「自分はいまどれで聴いているのか」の確かめ方までを解説していきます。
目次
Bluetoothのコーデックとは?

コーデック(codec)は、符号化(coder)と復号(decoder)を組み合わせた言葉です。簡単に言うと「データを圧縮して送り、受け取った側で元に戻すやり方」のことです。
たとえるなら、衣類の圧縮袋です。かさばる荷物を薄くして送り、受け取った側で袋を開けてふくらませる。この一連のやり方に名前が付いている、と考えてください。
Bluetoothで音楽を聴くとき、スマートフォンが音を圧縮し、イヤホンが元に戻しています。これを担当するのがコーデックです。
そして、Bluetoothで音楽を送るときの決まり(A2DPという仕様)では、SBCというコーデックへの対応が必須とされています。そのため、メーカーを問わずどの機器も持っています。
いわば全員が話せる共通語です。AACやaptX、LDACは、その上に足される「もっと得意な言葉」にあたります。
コーデックで音質が変わるのはなぜ?

送れるデータ量に上限があるから
CDの音は、44.1kHz/16ビットという仕様で記録されています。
これを1秒あたりのデータ量に直すと、44,100×16×2(左右2チャンネル)で約1.4Mbps(メガビット毎秒)になります。
いっぽうBluetoothが送れるのは、規格上の最大でも3Mbpsです。
数字だけ見れば入りそうですが、これは理論上の最大値です。電波は壁や人の体の影響を受けますし、この電波は音楽だけのために空いているわけでもありません。
そのため、実際に音へ回せる分はぐっと少なくなります。Appleも「Bluetooth接続はロスレスに対応していません」と説明しています(ロスレス=まったく劣化しない形式のこと)。
つまりBluetoothで音楽を聴くかぎり、圧縮は避けて通れないのです。
圧縮のときに何が削られるのか

必須コーデックのSBCは、44.1kHzのとき最大でおよそ328kbpsで送ります。元の約1.4Mbpsに対して、4分の1以下です。
圧縮では、人が気づきにくい音から順に間引いていきます。荷物を軽くするために、使う頻度の低いものから抜くのと同じです。
送れる量が増えれば、間引く量は減らせます。コーデックによって音が変わるのは、この「どれだけ残せるか」が違うからです。
ただし、同じ量を送っても圧縮のうまさは方式ごとに違います。その差をどのくらい聞き分けられるかも、イヤホンや聴く環境、人によって変わります。数字の大小だけで良し悪しが決まるわけではありません。
ちなみに、この「データの形を変えて送る」仕事は、ネットワークの世界ではプレゼンテーション層の役割として整理されています。文字コードや画像形式の変換と、同じ仲間の話です。
主なコーデックの種類と違い(SBC・AAC・aptX・LDAC)

先に結論をいうと、iPhoneを使っている方はAACの行を見ておけば十分です。aptXとLDACは、Android機の一部で使われるものです。
| コーデック | 送れる量の目安 | よく使われる機器 |
|---|---|---|
| SBC | 328kbps | すべてのBluetooth機器(必須) |
| AAC | 機器による | iPhoneなどApple製品 |
| aptX | 384kbps | Android機の一部 |
| aptX HD | 576kbps | Android機の一部 |
| aptX Adaptive | 279〜420kbps | Android機の一部 |
| LDAC | 990kbps(330/660/990を自動で切替) | ソニー製品・Android機の一部 |
※ 数値は各社が公表している値です。aptX・aptX HDは48kHzのとき、aptX Adaptiveは実際に使われる範囲の代表値です。実際の音質は、機器の作りや電波の状態によっても変わります。
SBC — すべての機器が持っている標準
送れる量は控えめですが、どんな組み合わせでも必ずつながります。
「SBCだから音が悪い」と言われることもありますが、実際に差を感じるかどうかは機器と環境しだいです。
AAC — iPhoneなどApple製品で使われる
音楽配信でもおなじみの圧縮方式です。Appleは、AirPodsなどが「Apple AAC Bluetoothコーデック」を採用していると説明しています。
aptX — Android機の一部で使われる
Qualcomm(クアルコム)というメーカーの技術です。改良版がいくつもあり、新しいaptX Adaptiveは電波の状態に合わせて送る量を変えます。
LDAC — 最大990kbpsで送る
ソニーが開発した方式で、最大990kbps。SBCの約3倍の量を送れます。
ただし常に990kbpsではなく、電波の状態に合わせて330/660/990kbpsを自動で切り替えます。
たくさん送ろうとするほど、電波の乱れには弱くなります。人混みで音が途切れやすいのは、こうした電波干渉が起きているためです。
Androidでは、この送り方を「音質優先」「接続優先」などから選べます。ソニーは、接続が不安定なときは「接続優先」を選ぶようすすめています。途切れが気になる方は、ここを見直してみてください。
音質だけでなく「遅延」も違う
動画を観ていて、口の動きと声がわずかにズレる。ゲームで効果音が一拍遅れる。あの現象が遅延です。
圧縮と展開のほかに、電波で送る時間や再生の処理も挟まります。そのため、機器全体では音が少し遅れて届きます。Qualcommは、aptX Adaptiveを使ったときの機器全体の遅れをおおよそ50〜80ミリ秒と説明しています。
音楽を聴くだけなら気になりませんが、動画やゲームが中心なら音質より遅延の小ささを重視するという選び方もあります。
コーデックは両方が対応して初めて使える

ここが、いちばん大事なところです。
LDAC対応のイヤホンを買っても、スマートフォンが対応していなければ使えません。逆もまた同じです。
会話にたとえるなら、相手が知らない言葉では話せないということ。そのときは、お互いが必ず持っているSBCに切り替わります。
どれを使うかは、接続したときに機器どうしが自動で決めます。あらかじめ決められた順番に従って、両方が対応しているものが選ばれる仕組みです。
自分のコーデックを確認する方法(iPhone・Android別)
Androidは、次の手順で確認・変更できます。
- STEP
「ビルド番号」を7回タップする
設定から「デバイス情報」を開き、その中の「ビルド番号」を7回続けてタップします。
- STEP
「開発者向けオプション」を開く
設定に戻ると、新しく項目が増えています。
- STEP
「Bluetoothオーディオコーデック」を見る
いま使われているものが表示されます。ここで切り替えることもできます。
※ メニューの名前や場所は、機種によって異なります。
iPhoneには、これを表示する画面がありません。AppleはAirPodsなどでAACを採用していると公表しているので、AAC対応のイヤホンを選んでおけば十分です。
結局どれを選べばいい?
選ぶときの目安は、次の3つに整理できます。
- iPhoneで音楽を聴く:AACに対応しているかを見れば十分
- Android機で音楽を聴く:手持ちの機種がLDACやaptXに対応しているかを先に確認する
- 動画やゲームが中心:低遅延をうたうもの(aptX Adaptiveなど)を選ぶ
いずれの場合も、基準は「自分のスマートフォンに合わせる」ことです。イヤホン側のカタログだけを見ても決まりません。
なお、箱に書かれた「Bluetooth 5.3」という数字は、コーデックとは別のものです。あちらは規格の世代を表すバージョンで、音質を示すものではありません。
まとめ
この記事では、Bluetoothのコーデックについて、仕組みから種類、確認のしかたまでを解説しました。
あらためて要点をまとめると、次のとおりです。
- コーデックは音を圧縮して送り、元に戻すやり方のこと
- Bluetoothでは送れる量に限りがあるため、圧縮は避けて通れない
- SBCはすべての機器が持つ標準。AAC・aptX・LDACはその上に足されるもの
- 送る側と受け取る側の両方が対応していないと使えない
イヤホンを選ぶときは、まず手持ちのスマートフォンが何に対応しているかを見てください。それだけで、選択肢はぐっと絞り込めます。



