社内システムの打ち合わせや、ベンダーからの提案書で「PaaS」という言葉を見かけた――そんなきっかけでこのページにたどり着いた方が多いのではないでしょうか。
先にお伝えしておくと、ソフトを自分たちで作っていないなら、PaaSを自分で契約する場面はまず来ません。
ですからこの記事では、PaaSの意味を説明したうえで、作らない立場の人が知っておけば十分なところまで絞って書きます。全部を覚える必要はありません。
目次
PaaSとは? ソフトを作るための土台を借りる形

PaaSとは「Platform as a Service」の略で、「パース」と読みます。直訳すると「サービスとしてのプラットフォーム」です。
ここでいうプラットフォームとは、ソフトを作って動かすための土台のことです。サーバーやOS、その上で動かす部品を、ひとまとめにしたものだと考えてください。
この土台を、自分たちで買いそろえる代わりに借りるのがPaaSです。
この線引きは、アメリカの国立標準技術研究所(NIST)が出しているクラウドの定義(SP 800-145・2011年9月)に、はっきり書かれています。
利用者に提供されるのは、事業者が対応しているプログラミング言語・ライブラリ・サービス・ツールを使って作った、あるいは入手したアプリケーションを、クラウドの基盤の上に配置することである。利用者は、その下にある基盤を、ネットワークであれ、サーバーであれ、OSであれ、保存領域であれ、管理も制御もしない。一方で、自分が配置したアプリケーションと、場合によってはそれを動かす環境の設定については、自分で決められる。(原文: The capability provided to the consumer is to deploy onto the cloud infrastructure consumer-created or acquired applications created using programming languages, libraries, services, and tools supported by the provider. The consumer does not manage or control the underlying cloud infrastructure including network, servers, operating systems, or storage, but has control over the deployed applications and possibly configuration settings for the application-hosting environment.)
読みどころは後半です。土台は自分では管理も制御もしない。自分たちが配置したものと、場合によってはそれを動かす環境の設定だけを自分で決められる。この線引きがPaaSの中身です。
PaaSを契約するのは誰か ― SaaSとの違い

PaaSは、ソフトを作る人のための形です。ですから契約するのは、開発を担当する部署か、システムを請け負っているベンダーになります。
SaaSとの違いは、ここがいちばんはっきりしています。
| SaaS | PaaS | |
|---|---|---|
| 借りるもの | できあがったソフト | ソフトを作って動かす土台 |
| 使う人 | その仕事をする人(全員) | ソフトを作る人 |
| あなたが契約する場面 | あり得る | 作っていなければ、まず無い |
つまりPaaSは、あなたが使うものではなく、あなたが使うものが載っている土台です。社内で作った申請システムや業務アプリがあるなら、その下にPaaSがあるかもしれません。
SaaS・IaaS を含めた3つの並びは、こちらにまとめてあります。
土台を借りると、何が良くて何が面倒か

作る側から見た良し悪しを並べると、次のようになります。
- 土台を用意する手間がないぶん、早く作れる
- 機械を買わずに済む
- 利用が増えたときに広げやすい
- 作ったものの守りは、自分たちの側に残る
- あとから別の事業者へ移すのが簡単とは限らない
デメリットの2つ目は「特定の事業者から離れられなくなる」と説明されることがあります。ここで、よく一緒に語られる話を1つ切り分けておきます。
先ほどのNISTの定義には、脚注が添えられています。
この能力は、他から入手した、互換性のあるプログラミング言語・ライブラリ・サービス・ツールを使うことを、必ずしも妨げるものではない。(原文: This capability does not necessarily preclude the use of compatible programming languages, libraries, services, and tools from other sources.)
この脚注が言っているのは作るときに使う道具の話です。事業者が用意したものだけしか使えない、という決まりではありません。あとで別の事業者へ移せるかどうかについては、PaaSの定義も、この脚注も触れていません。
ですから「PaaSだから必ず囲い込まれる」とも「移せる」とも、定義からは決められません。どこまで移しやすいかは、選んだサービスと、その上に何を作ったかによって変わります。
提案書でこの点を説明されたときは、「一般論として移せない」ではなく「今回の作りでは何が移しにくいのか」を聞くのが、意味のある確認になります。
PaaSの代表例 ― 名前を見かけたときのために

PaaSとして提供されている代表的なものに、Amazon Web Services(AWS)のElastic Beanstalk や、Google Cloud のApp Engine があります。
これらの名前を覚える必要はありません。見かけたときに「ああ、社内のシステムが載っている土台の話だな」とわかれば十分です。
止まったとき、誰が直すのか
土台は事業者、その上に置いたものは作った側。どちらの話なのかで連絡先が変わります。
やめるとき、何を持ち出せるのか
作ったものとデータをどう取り出すのかは、契約の段階で決めておく話です。
まとめ
PaaSは、ソフトを作って動かすための土台を借りる形でした。
- ソフトを自分たちで作っていないなら、契約する場面はまず無い
- NIST の定義では、土台は自分では管理も制御もしない。配置したものだけを自分で決められる
- 定義からは「必ず囲い込まれる」とも「移せる」とも決められない(脚注が触れているのは作るときの道具で、移行のしやすさではない)
- 見かけたら、社内システムが載っている土台の話だと思えばよい
作らない立場の方が実際に契約に関わるのは、SaaSのほうです。
参考: The NIST Definition of Cloud Computing(SP 800-145)(アメリカ国立標準技術研究所・PDF・英語)




