インターネットをよく使うけど、「クラウド」とか「クラウドコンピューティング」って言葉、実はよくわかってない… そんなあなたへ。
この記事では、ITやネットワークの知識がなくてもわかるように、クラウドコンピューティングについて解説していきます。
とくに「預けて安全なのか」は、「安全です」では終わらせません。事業者と自分の、どちらが何を守ることになっているのかまで見ていきます。
なお、この記事で扱う「クラウドコンピューティング」と、短く言った「クラウド」は、ふだん同じものを指します。身のまわりのどれがそれに当たるのかは別の記事にまとめてあるので、ここでは仕組みと、安全がどこまで守られるのかに絞ります。
目次
クラウドコンピューティングってどんなもの?

クラウドコンピューティングとは、インターネットを通じて、必要な時に必要なだけ、コンピューターの資源を借りて使うサービスのことです。
例えば、スマホの写真を保存するのにGoogleフォトを使ったり、ファイルをDropboxで共有したりしたことはありませんか? あれもクラウドコンピューティングの一種です。
自分のパソコンにデータを保存する代わりに、インターネット上の「クラウド」と呼ばれる場所に保存することで、スマホやパソコンなど、どんなデバイスからでもデータにアクセスできるようになります。
この言葉には、よりどころになっている定義があります。アメリカの国立標準技術研究所(NIST)が2011年9月に出した7ページの文書「The NIST Definition of Cloud Computing」(SP 800-145)です。そこでは、クラウドを次のように整理しています。
このクラウドのモデルは、5つの必須の特性、3つのサービスモデル、4つの配置モデルから構成される。(原文: This cloud model is composed of five essential characteristics, three service models, and four deployment models.)
数を暗記する必要はありません。大事なのは、クラウドという言葉には、こうして中身が決められた拠りどころがあるということです。このあと出てくる「種類」も「無制限」も、ここに書かれていることで確かめられます。
そのうえで押さえておきたいのは、クラウドは「買って自分で持つ」のではなく「借りて使う」ものだという一点です。このあとの話は、全部そこから出てきます。
クラウドコンピューティングを使うと、何が変わるのか

機器を自分で買って自社に置く形は「オンプレミス」と呼ばれます。それに対してクラウドがよいとされる理由は、次の3つにまとめられます。
- 機械を買わずに、必要な分だけ借りられる
- 容量が足りなくなっても、増やせる
- 置き場所が自分の手元でなくなるので、どの機器からでも開ける
機械を買わずに、必要な分だけ借りる
サーバーなどの機器を自分で買うと、使っていない時間もその費用がかかります。クラウドは借りものなので、使う量を増やしたり減らしたりできます。NIST の定義は「計測されるサービス(Measured service)」として、使用量を計って利用者にも事業者にも見えるようにすることを挙げ、脚注で「これは通常、従量課金・都度課金で行われる」(原文: Typically this is done on a pay-per-use or charge-per-use basis.)としています。
⚠ 個人向けのサービスは、使った量ではなく月ごとの定額のものが多くあります。「使った分だけ払う」形になるとは限りません。
ここでいう「サーバー」が何を指すのかがあいまいなら、先にこちらを読むと、この節の話がつながります。
容量は「見かけ上」無制限
インターネット上にデータが保存されるので、自分のパソコンの容量を圧迫しません。足りなくなっても、プランを上げれば増やせます。
ただし「いくらでも入る」わけではありません。NIST の定義は、この性質(Rapid elasticity)をこう書いています。
利用者から見ると、用意できる能力はしばしば無制限に見え、いつでも好きなだけ確保できる。(原文: To the consumer, the capabilities available for provisioning often appear to be unlimited and can be appropriated in any quantity at any time.)
「無制限に見える」であって、「無制限である」とは書かれていません。実際には契約した容量があり、それを超えると新しく保存できなくなります。
どの機器からでも開ける(インターネットがあれば)
データが手元ではなくインターネットの向こう側にあるので、スマホでもパソコンでも、同じものを開けます。複数人で同じファイルを共有するのも簡単です。
裏を返すと、手元にコピーが残っていないものは、つながらないときに開けません。あらかじめ「オフラインでも使う」と指定しておけば手元にも置けますが、指定していないものは回線が止まった時点で見られなくなります。
クラウドコンピューティングの種類は、誰が使えるかの違い

クラウドの種類は「パブリック・プライベート・ハイブリッドの3つ」と紹介されることが多いのですが、もとになった NIST の定義では4つあります。「コミュニティクラウド」が抜けているのです。
| 呼び方 | 誰が使うために用意されたものか |
|---|---|
| パブリッククラウド | 広く一般の人が使えるように用意されたもの |
| プライベートクラウド | 1つの組織だけが使うために用意されたもの |
| コミュニティクラウド | 同じ関心ごと(目的・セキュリティ要件など)を持つ複数の組織のために用意されたもの |
| ハイブリッドクラウド | 上のうち2つ以上を組み合わせたもの |
なお「マルチクラウド」という言葉も見かけますが、これは複数の事業者を併せて使うことを指す別の呼び方で、NIST の4つには入っていません。
この分け方は、組織がどう構えるかの話です。あなたがふだん使っている Google フォトや iCloud、Dropbox は、申し込めば誰でも使えるので、この分け方ではパブリッククラウドに当たります。
なお「プライベートクラウドはセキュリティが高い」と言われることがありますが、NIST の定義に書かれているのは「1つの組織が独占して使う」ということだけで、安全性については触れられていません。使える人が限られていることと、守りが固いことは、別の話です。
もうひとつの分け方(SaaS・PaaS・IaaS)は、「どこまでを借りるか」の違いです。借りる範囲が広いか狭いかの差で、おおまかには次のように分かれます。
| 呼び方 | 借りるもの |
|---|---|
| SaaS | できあがったサービスをそのまま |
| PaaS | その上で自分のものを作るための土台 |
| IaaS | 機械そのものに近いところまで |
ふだん目にするサービスの多くは SaaS です。3つの違いはこちらで扱っています。
クラウドコンピューティングって安全なの?

この問いに「安全です」と答えることはできません。クラウドの安全は、事業者と利用者で分担することになっているからです。
総務省が企業の責任者・経営者向けに出している「クラウドの設定ミス対策ガイドブック」(2024年4月)は、この考え方をこう説明しています。
クラウドのセキュリティの確保については、まず、サービスの提供者と利用者とが、責任を分担するという考え方が重要です。このような考え方を「責任共有モデル」と呼びます。責任共有モデルの考え方は現在多くのクラウドサービス事業者に採用されています。
同じ資料は、この引用のすぐあとで「SaaS、PaaS、IaaSといったクラウドサービスの種類によって責任分担の範囲が異なります」とも書いています。分担の線は、借りる範囲によって動きます。
それでも、どの形でも利用者の側に残るものがあります。建物や機械の守りは事業者が引き受けますが、パスワードを何にするか、どのファイルを誰に見せるかは、こちらで決めることです。
- 建物と機械の管理(入退室・電源・故障した部品の交換)
- そのサービスを動かしているソフトウェアの更新
- アカウントのパスワードと、二段階認証を使うかどうか
- どのファイルを誰に共有するか(リンクを知っていれば誰でも開ける設定になっていないか)
- 何を預けて、何を預けないか
同じガイドブックは、規約についてもこう注意しています。
特に、サービスの提供者側が、責任を負えない分野について「免責条項」や「責任制限条項」が記述してあることがよくあります。
これは企業向けの資料ですが、個人で使うサービスの利用規約にも同じ形の条項があります。たとえば Apple は iCloud の利用規約でこう書いています。
お客様は、お客様が本サービスを通じて保存またはアクセスする重要な文書、画像、またはその他のコンテンツについては、自身のコンピュータやその他のデバイスにバックアップする責任を有します。
出典: iCloud 利用規約(Apple)(2026年8月に確認)
「事業者が全部を保証してくれる」という前提では書かれていない、と考えておくのが安全です。
預けたデータが実際にどこに置かれ、それをどうやって確かめるかは、こちらで扱っています。
まとめ
クラウドコンピューティングは、コンピューターの資源を買って持つのではなく、借りて使うやり方です。必要な分だけ借りて増減できる、どの機器からでも開ける、という利点は、すべてここから出てきます。
いっぽうで、次の3つは覚えておいてください。
- 容量は「無制限に見える」だけで、契約した分を超えると新しく保存できなくなる
- 手元にコピーが残っていないものは、インターネットがないと開けない
- 安全は事業者と利用者の分担で、その線は借りる範囲によって動く。ただしパスワードと共有の設定は、どの形でも利用者の側に残る
「クラウド」という言葉そのものの整理と、身のまわりのどれがクラウドなのかは、こちらにまとめてあります。
参考: The NIST Definition of Cloud Computing(SP 800-145)(アメリカ国立標準技術研究所・PDF・英語)





